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森づくりコーディネーター

Interview:森づくりコーディネーター✕企業

interview 04 コーディネーター

企業も地域も、関わる人達が幸せを感じられる、持続可能な森づくりを。

滋賀県 琵琶湖環境部 森林政策課 やまの健康推進係 主幹 
平野 里子 さん(左)
滋賀県 琵琶湖環境部 森林政策課 やまの健康推進係 
西村 辰也 さん(右)

「琵琶湖森林づくりパートナー協定」と「やまの健康」、二つの流れが一つに。

この仕事に携わる以前は何をされていましたか。

西村:大学の農学部森林科学科を卒業して県に入ってからからはずっと現場で、治山ダムや林道をつくったり、山林経営に携わったりと森林の中で仕事をしてきましたが、3年前に現在の部署に着任し、「琵琶湖森林づくりパートナー協定」の企業と森林所有者のマッチングを担当するようになりました。

写真左:平野 里子さん、写真右:西村 辰也さん

企業との仲立ちをはじめたきっかけ、経緯を教えてください。

平野:平成30年度、山村部にフォーカスして「やまの健康」を実現するという知事の公約によって、「やまの健康」推進プロジェクトがスタートしました。「やまの健康」というのは、やまの恵みにふれることで人々が健康になり、人々がやまを訪れ、あるいは資源を活用することによって「やま」が健康になるというものです。それを実現するために都市と山村をつないで人・経済の循環を起すことを目指しています。このプロジェクトでは、まず「やまの健康モデル地域」を選定し、山村部の地域住民による地域活性化の取組を応援することからスタート。次のフェーズとして、これらの取組の情報発信を通じて、「やまの価値を都市部に届ける」ことに取り組むようになりました。ただ、「企業の森林づくり」とは別の事業として取り組んでいました。

滋賀県庁ホームページより

西村:もともと年間数件しかなかった企業からの「琵琶湖森林づくりパートナー協定」に関する問い合わせが、SDGsや脱炭素の流れの中で増えてきたというのに、残念なことにつなぐ先の「やま」が少なかった。それで企業のニーズにどう応えていくかを模索する中で、やまの価値を都市部に届ける「やまの健康」の取り組みと近いところに来ていました。

平野:もう一つ、令和3年度から森林サービス産業の事業も動き始めていて、栗東(りっとう)市、他2地域で森林空間を継続的に有償利用してもらえるようなコンテンツ・体制づくりに取り組んでいました。その中で、「森林空間は企業にも価値を提供できるはず」という流れになってきて、昨年は企業の皆様向けに、「森の中で企業のSDGsを考える」をテーマにモニターツアーを3地域で実施しました。
「琵琶湖森林づくりパートナー協定」は問い合わせがあったら動く「受け身」だったけれど、山や森の価値を発信してマッチングしていく姿勢に変わってきたのだと思います。

西村:滋賀県には琵琶湖の豊富な水を育む森林がありますが、林業の視点では、全国的に見ても素材生産量が多くないんです。でも京阪神から近い立地にあり、森へのアクセスが良いという強みもあります。だから、やまの健康というベクトルの施策を企業向けに提案することによって、ある意味、滋賀県らしい森林・林業施策が打ち出せるんじゃないかと、個人的にも考えていました。

県が企業と地域をコーディネート

コーディネートとは実際にどういうことをするのでしょうか。

西村:森林づくりパートナー協定に関わるお問合せがあった場合は、その企業が森でどういうことをしたいのか、どの辺りのエリアをお考えなのか等、まずご要望や期待されている事をお聞きし、地域の関係者とも調整して、企業のニーズに合った森づくりの候補地を提案。そこから実際にパートナー協定を締結するところまで対応しています。
協定を結んだ後の実施段階では、森林所有者の方などに引き継いで動いていただいています。

企業の森への関わり、最近の傾向は?

平野:植樹の要望が多いです。「森林づくり」イコール植樹、CO2を吸収するし、いいことだという認識が強いからではないかと思います。それももちろん大切なことですが、都市と森をつないで循環させるというコンセプトに立てば、「森林づくり」は植えることだけではありません。ボランティアや寄付だけでなく、例えば対価を払って森林空間体験を利用することで、地域の関係者は森林の手入れを継続できる。ニーズに合った形で関わっていただくことを私たちは提案しています。選択肢が多様であることを知っていただきたいです。
最近では、新入社員研修など人材育成のプログラムに森づくりを加えたいとか、健康づくりに森林空間を利用したいという企業も出てきています。

西村:全国で「企業の森づくり」というフレームができて、一定の型が決まってしまったように見えます。一歩踏み込んで、地域と持続的に付き合おうとする企業が増えてくれると良いなと思っています。

企業へのPR、働きかけはどのように行っていますか?

「五感で感じる。湖国のやまに出会う三日間」イベントのチラシ

平野:木を植えるだけではなく、地域に足を運んだりサービスを利用したりすることも「森林づくり」の一環であるということを理解していただくことは難しいと認識しており、伝える努力を続けています。 昨年、大阪の梅田で「五感で感じる。湖国のやまに出会う三日間」というイベントを開催しました。県内に5つある「やまの健康」モデル地域の関係者が、それぞれにやっていることやつくったものを発信してもらえる場を設け、会場には原木を置いて木を伐り倒す映像を投影して見せたりもしました。企業向けにセミナーも実施しましたが、企業の方に向けて直接発信したのはこれが初めてでした。

続いて今年は東京ビッグサイトで開催されたエコプロに出展しました。そこでは、私たちが考える「企業の森林づくり」のコンセプトを説明し、6地域7メニューをご紹介しました。例えば、森林空間利用、伐採跡地の森づくり、「地域の苗木をつくる」もあれば、「生物多様性の森をつくる」、「里山で活動する」などもあり、企業のリクエストに近そうなものを選んでいただけるようにしました。さっそくマッチングに至ったケースもあります。

エコプロ(2023年12月)@東京ビッグサイト

森林整備、空間利用、木育、J-クレジット… どこに関わっても森林づくりパートナー。

企業の森の活動状況を教えてください。

平野:もともと知事発の「やまの健康」という大テーマのもとで都市と山村をつないで循環を起すさまざまな取り組みを行っていて、一方では「琵琶湖森林づくりパートナー協定」として企業の森づくりを行ってきました。その中で、都市と山を何によってつなぐのか、「やま」からどんな価値を提供できるのかを洗い出したときに、多様な選択肢があることに気づきました。たとえば、子どもの森林環境学習や「木育」への支援、滋賀県産材であるびわ湖材をオフィスに活用していただくこと、社員のみなさんに森林に出かけていただくこと。 木や土に触れて自然とつながり、山村地域の人々の暮らしに触れ、森林空間を活用した健康づくりやアクティビティを体験する…。そうしたことが都市とやまをつなぎ、人と経済の循環を生み出し、山村地域のコミュニティを維持し、森林を守り育てることにつながります。
そして、それらのどの部分に関わっていただいても「森林づくりパートナー」です、という方向にアップデートされたのが、いま私たちが進めている「企業の森林づくり」の活動です。

滋賀県ホームページより:「企業の森林づくり「都市」と「森林・やま」の循環のメニュー」

「森林整備+空間利用」の三者協定締結、「SANKI YOUの森 琵琶湖こんぜ」。

企業さんとの具体的な協定事例について教えてください。

西村:三機工業さんは東京が本社で、山梨で森づくり活動をされており、関西においても森づくり活動を広げていきたい、植樹をしたいということでご連絡がありました。なるべく早くマッチングができて、しかも「大阪から通いやすい」という条件に合う場所として、候補地は栗東としました。加えて、フォレストアドベンチャー、観光協会さんのコケのワークショップやヨガなど、森林空間利用のサービスが展開されていることもご紹介しました。
せっかく森林整備に来ていただいたら、その後、社員さんの楽しみの部分も欲しいですよね。それがただの遊びではなくて、地域の循環の一部となり地域活性化につながるということも含めてご提案させていただいたという流れです。

栗東の森からの眺望。市街地の先には琵琶湖が一望できる。

森林整備に加えて、森林空間利用という新たな形にもお力添えをいただけませんかとの提案を三機工業さんが受け入れてくれて、結果、森林空間利用まで組み込んだ県内初の事例が生まれました。 通常のパートナー協定は、所有者と企業が協定当事者になって、県と市町が立ち会うという形ですが、今回は当事者の中に観光協会さんにも入ってもらって三者協定とし、そこに森林空間利用に関するご支援も盛り込む形になりました。企業や地域のニーズに応じて既存の制度を変形して対応したことが、その後の「滋賀県版企業の森林づくり」へのアップデートにつながったと思います。

平野:三機工業さんの協定に際して、森林空間利用をすることがなぜ森づくりになるのか、その理由を丁寧に説明する必要があったんです。「森林空間を利用するプログラムを提供するためには必然的に森の手入れをすることになり、それによって獣害や不法投棄をも防げるし、雨で崩れたらすぐわかるし、森や地域全体にとってメリットがあるんです」というように。この機会に言語化できたのは、すごく良かったと思います。

Message

森づくりへの参加を考えている企業・団体へ向けて、
一言メッセージをお願いします。

平野 里子さん
企業のみなさんと一緒につくり上げるのが理想です。現地にご案内して地域のコミュニティの方々に出会っていただくと、森の中に新たな発見があるかもしれません。そこからその企業が目指すところへどういうふうに持っていくかを、一緒に考えていきたいと思っています。
滋賀県は琵琶湖とその源流の森があり、森林環境学習「やまのこ」や、「やまの健康モデル地域」のような他県にはない森林コンテンツがありますので、そういう要素を組み合わせて、一緒にディスカッションしたり意見交換したりしながら考えて行けたらと。
西村 辰也さん
いわゆる企業の森という型から抜け出すのは難しいかもしれませんが、関わる人達が、企業側でも地域側でも幸せであるように、そこに無理とか無駄がないようになればいいなと願っています。そうなってこそ本当に持続可能な取組になると思います。基本、みんな良いことをしようとしているのに、個々の関係者の思いとか、取組の内容は「それでええのん?」というのが、ずっと思っていることなので…。それを乗り越えて、企業のみなさんと相談しながら一緒につくっていければと思います。
interview04
コーディネーター

企業も地域も、関わる人達が幸せを感じられる、持続可能な森づくりを。

滋賀県 琵琶湖環境部 森林政策課 やまの健康推進係
平野 里子 さん(左) 西村 辰也 さん(右) 
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