MENU

気候変動と森づくり

深刻化する気候変動

いま世界中で、地球温暖化が引き起こす気候変動の影響が顕在化しています。記録的な気温上昇、強大化する台風、大規模な洪水や巨大な熱波(山火事)、深刻な干ばつなどにより尊い人命が奪われ、国土が崩壊するなど、甚大な被害が報告されています。

世界の平均気温は2020年時点で、工業化以前(1850~1900年)と比べて約1.1℃上昇。2015年のパリ協定では1.5℃に抑えることが世界共通の目標となりましたが、このままではさらなる気温上昇が危惧されます。2021年の気候変動に関する政府間パネル「IPCC」の第6次評価報告書では、今後地球の平均気温上昇が2℃になった場合、猛暑(酷暑)は13.9倍になり、最悪のシナリオでは「2300年に海面水位が15m上昇」との予測も示されました。

直面する危機を乗り越え持続可能な地球を次世代に引き継ぐためには、一刻も早く温暖化の主な原因であるCO2排出量を削減し、カーボンニュートラルを実現しなければなりません。

SDGsのゴール13でも、「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」との方向が示され、世界各国が取組を進めています。

森林は重要な炭素貯蔵庫

森林は大きな炭素貯蔵庫です。樹木は人類の活動が排出する二酸化炭素を吸収し、長い間固定しておくことができます。樹木の葉は、大気から吸収した二酸化炭素と土壌から吸収した水で光合成を行って、ブドウ糖などの炭水化物をつくり、酸素を発生します。この時つくられる炭水化物の炭素は、すべて大気中の二酸化炭素由来のものだそうです。この炭水化物をもとに、樹木は幹・根・枝葉をつくり大きく成長していくため、成長期の若い森林はより多くの二酸化炭素を吸収します。

我が国の森林面積は過去100年の間変わっていません。森林の成長に合わせて蓄積量(炭素固定量)は継続的に増加していますが、成長量の多い若い森林が徐々に少なくなっているため、全体の増加速度は減少傾向に入っているとされています。

令和4年の環境省の発表によれば、我が国の森林における吸収量は約5,500万t-CO2/年。これを増やしていくには、利用期を迎えた人工林については、「伐って、使って、また植える」という循環利用の森づくりを確立し、森林の若返りを進めて行く必要があります。併せて、大規模建築物の木造化や木質バイオマスの新素材開発など、より多くの炭素を長期間貯蔵する木材利用技術が待たれています。

生物多様性と森づくり

「気候と生物多様性の危機は表裏一体の関係にある」と、2022年10月の報告書で世界自然保護基金「WWF」は指摘しました。報告書では、「生物多様性の豊かさの指標となる数値は過去48年間で69%低下した」と発表されました。毎日およそ100種類の生物が絶滅しているといわれ、世界的な危機は一層深刻化しています。
たとえばサンゴ礁は、海水の温度が2度上昇すると99%死滅します。サンゴ礁が死滅すれば、そこを棲家としてきた他の生き物たちも繁殖できなくなってしまいます。1つの種の消滅は他の種の生態にも影響を及ぼすことはわかっていますが、複雑な生態系のメカニズムが解明されているわけではないので、実際にはどこまで連続した影響があるのか計り知れません。森林など地球の基盤をつくる自然資本を守る意義はますます大きく、森林づくりに参加するすべての企業・団体でも取り組んで行く必要があります。

ネイチャー・ポジティブ

近年耳にする「ネイチャー・ポジティブ」は、これまでの「生物の多様性を保全する」という目的からさらに踏み込んだ、「生物多様性を含めた自然資本を回復させる」ことを目指す新たなテーマです。

2021年10月に開催された第15回生物多様性条約締約国会議(COP15)で、「遅くとも2030年までに生物多様性の損失を逆転させ回復させる」ことを明記した「昆明宣言」が発表されました。これまで人類のすべての経済活動は自然を資本としてきたことから、現状維持を目指すのではなくて、もっと自然を増やし、減少傾向にある現状を逆回転させて豊かな自然資本をとりもどそうとする意欲的な目標です。現在グローバルな枠組みでの制度設計が急速に進んでおり、当然ながら、企業・団体の森づくりにも少なからず影響を与えるだろうことが予想されます。

参考資料