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森づくり基礎知識

森林利用の目的

CO2吸収源としての期待が高まる森林は、他にも生物多様性の保全、水源かん養、土砂災害の防止、気候の調整など、環境を保全する基盤であるとともに、林産物の供給や健康・教育・観光の場の提供など、私たちの暮らしや文化を支える多面的な機能を有しています。私たち人間を含む全ての生物にとって重要な役割を果たす森林資源を減らすことなく、持続可能な状態に保ち続けるためには、賢く「森を使わせてもらう」ことが重要です。では実際に、どのような森林の利用目的があるのか、大きく3つに分けて見ていきましょう。森づくりは利用目的に応じた施業をしていく必要があるからです。

  1. 建築・土木、家具、紙などの木材利用
  2. 木質バイオマスのエネルギー利用
  3. 健康・教育・観光などでの空間利用

1.木材利用

建築・土木用材、家具・建具、紙・板紙の原材料、その他様々な木製品などに使われている木材。森林の産物である木材は、調湿性(室内の湿度を一定に保つ)や、温もり(熱を伝えにくい)、柔らかさ(衝撃吸収・緩和作用)、心地よい芳香(ストレス緩和・リッラクス効果)などの効用が認められる素材でもあります。そんな木材の利用状況は今どうなっているのでしょうか。

令和3(2021)年度森林・林業白書によると、日本の木材需要量は、昭和48(1973)年に過去最高の1億2,102万m3となったが、オイルショックやバブル後の景気後退等により減少傾向。平成21(2009)年にはリーマンショックの影響により、前年比19%減の6,480万m3と大幅に減少。近年は平成20(2008)年の水準を上回るまでに回復していたが、新型コロナウイルス感染症の影響により、令和2(2020)年の木材需要量は前年比9.1%減の7,444万m3。

一方、木材の「自給率」を見ると、かつて国産材供給の減少と木材輸入の増加により低下を続け、平成14(2002)年には18.8%まで低下したが、その後は上昇傾向。令和2(2020)年は42.7%までに回復。この自給率アップの背景には、国を挙げての国産材利用の推進があります。

日本の森林面積の約4割を占める人工林。その多くは高度成長期に大量に造林されたスギ・ヒノキ等であり、それらの木が本格的な利用期を迎えて、蓄積量(資源量)は年々増加する一方、国産木材の利用は進んでいませんでした。そこで林野庁は、平成17(2005)年より、木材利用の意義を普及啓発し、木材利用を拡大していくための国民運動として「木づかい運動」を開始。「伐って、使って、植えて、育てる」という人工林のサイクルの一部として、木材を使うこと、暮らしの中に木製品を取り入れることに取り組んできました。

また、国産材の利用をさらに広げるために、平成22(2010)年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行。学校や自治体庁舎をはじめとする公共建築物の木造化・木質化が進んできました。この法律が令和3(2021)年には「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の推進に関する法律(木材利用推進法)」に改正され、あらゆる建築物における木材利用の促進が加速されています。

2.エネルギー利用

かつて日本人は薪や炭を日常的なエネルギー源として用いていました。近年では、再生可能エネルギーの一つとして、燃料用の木材チップや木質ペレット等の、木由来のバイオマスが再び注目されています。木質バイオマスのエネルギー利用においては、発電、熱利用、熱電併給の3つの方法があり、これらはエネルギー自給率の向上、災害時におけるレジリエンスの確保、地域経済への波及効果などの価値が認められています。

近年の動向を見ると、平成24(2012)年の「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)」の導入により、各地に木質バイオマス発電所が新たに整備。エネルギーとして利用される木質バイオマスの量も年々増加し、令和2(2020)年には、薪・木炭を含む燃料材の国内消費量は前年比23%増の1,280万m3に及び、このうち国内生産量は892万m3で前年比29%増。

こうした燃料材の急激な増加によって、木材をそのまま利用する既存需要者との競合や、森林資源の持続的利用への懸念も生じました。そこで、木材をまず建材等に利用した後、ボードや紙等としての再利用を経て、最終段階で燃料として利用する「カスケード利用」や、林地残材・未利用の木材を燃料材に用いることなどが推進されるようになりました。

さらなる燃料材の需要増加に備えつつ、持続的な燃料供給を行うために、林地残材の収集・運搬を効率化して未利用材の利用率を向上させること。また、エネルギー変換効率の高い熱利用や熱電併給システムを構築して、地域の森林資源を無駄なく利用する「地域内エコシステム」の取組などが期待されています。

3.空間利用

近年、自然志向や健康意識の高まりによって、森林セラピー、森ヨガ、森の企業研修、森のようちえん、森フェス、森のトレイルラン、グランピング、農家・林家民宿など、森林という空間を活用した健康・教育・観光の分野での様々なサービスが提供されるようになっています。また、人が森と触れることによる効能効果のエビデンスの蓄積も進み、企業の健康経営や働き方改革の一環として森林を活用したプログラムを取り入れる例が増加。さらにコロナ禍において、ソーシャルディスタンスを保ちやすく、リラックスできる森が再注目され、キャンプやワーケーションなどでの利用も増えました。

実際、企業によるメンタルヘルス対策や健康づくり、環境教育や社員研修のアクティビティの場などとして、森林空間を積極的に活用する例は多数報告されています。これらは地域との連携・協働により行われています。

例えば、令和2(2020)年に森林サービス産業「モデル地域」に選ばれた7地域のうち、長野県小海町は、森林での滞在とセラピーによる独自のメンタルヘルスケアプログラムの提供で企業12社と協定を締結。さらにリモートワークの拠点施設を整備し、サービスの進化と利用者拡大を図っています。

また、森林セラピーを中心に企業との提携を行ってきた長野県信濃町は、新たに森ヨガや親子で楽しめる宿泊型プログラムの開発により、社員とその家族が個人で気軽に参加できるコンテンツの拡充に取り組んでいます。

一方、村民の健康増進を目的にクアオルト健康ウォーキングコースを設定し、専門ガイドを育成してきた岐阜県白川村は、教育研修施設を拠点とした森林でのメンタルへルスケアプログラムを追加することにより、新たな企業研修需要の開拓をめざしています。

このような森林空間を利用した活動によって、都市から森へ人々を呼び込み、関係人口が増大し、地域の活性化にもつながることが期待されています。