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森づくりコーディネーター

Interview:森づくりコーディネーター✕企業

interview 03 コーディネーター

大切な森林を次世代に引き継いでいくため、
無理なく続けられる企業の森づくりを。

公益財団法人 山梨県緑化推進機構 代表理事
やまなし森づくりコミッション 副会長 
島田 欣也 さん

林政経験を活かして、森づくりコミッション立ち上げへ

この仕事に携わる以前は何をされていましたか。

県庁で38年間、森林環境行政に携わっていました。令和2年3月31日に退職し、公益財団法人 山梨県緑化推進機構の理事会で代表理事に選任されました。元々大学で林学を学び、県庁でも林業職。2年だけ企画部門に在籍していましたが、それ以外の36年間は森林、林業行政に携わり、治山、林道、県有林、緑化、部の政策の企画など色々な仕事をしました。最後2年は県の林政の責任者をやっていました。

企業との仲立ちをはじめたきっかけ、経緯を教えてください。

林野庁と国土緑化推進機構が、企業の森などCSR活動への支援策を打ち出し始めたのが平成18年頃だったと思いますが、ちょうどその頃私も県の森林施策の方向性を考える仕事をしてにおり、今後の森林整備の進め方を考えていました。当時は全国的に間伐の遅れが問題でした。木材需要も多くない中で、所有者は間伐をしたくない。なぜなら、間伐のための補助金が68%出ても、残りの32%を所有者が出さなくてはならないからです。そこで、条件の悪い急斜面とか木を運び出せないところには、所有者が負担する32%に公費を充当して間伐を進める事業を検討していました。でもそれは、県だけが負担するのではなく、社会全体で森を守っていく仕組みも併せて考えるべきでは、ということで、その頃盛り上がりを見せていたCSR活動などを背景として、企業や県民のみなさんにも広く応援してもらう仕組みを考えていくことになりました。

森林整備の経験がない企業のみなさんに「森づくり」に参加してもらうには、コーディネートする組織が必要になると考え、公費で32%を補填する仕組みとのセットで、県の政策として検討を進めました。次の年に、「森づくりコミッション」を立ち上げることになり私が担当になってしまいました。(笑)

その後、県内外の森林、環境、ボランティア関係団体のみなさんに,こうした取り組みを説明して賛同いただき、設立発起人会をつくって、森づくりコミッションを立ち上げました。当時26団体ぐらいが参加して、みんなで県民による森づくりを盛り上げようと合意しました。その一つの役割として、企業・団体のみなさまの森づくりのコーディネートをすることになったのです。

森づくりコミッションとしての役割

コーディネートとは実際にどういうことをするのでしょうか

森林や林業は、残念ながら一般の皆様には馴染みが薄いので、企業の方が何か森の役に立つことをしたいと思われても、実際に何をやったら良いかわからないというケースがほとんどです。そこで、森づくりコミッションでは、まず森は今どのような状態で、目指すべき森の姿と、整備しなければならない森はどこにあるか、どのような作業が必要かなどについてご説明した上で、企業等の支援を希望する森林所有者を企業にご紹介します。

森林や林業は、残念ながら一般の皆様には馴染みが薄いので、企業の方が何か森の役に立つことをしたいと思われても、実際に何をやったら良いかわからないというケースがほとんどです。そこで、森づくりコミッションでは、まず森は今どのような状態で、目指すべき森の姿と、整備しなければならない森はどこにあるか、どのような作業が必要かなどについてご説明した上で、企業等の支援を希望する森林所有者を企業にご紹介します。

どこでどんな森づくり活動を実施するのか、作業の内容と実施期間、支援する資金の額、植林後の森林管理から、間伐材の利用まで、計画と責任の範囲を明らかにして協定を締結します。森林所有者と、市町村、企業、森林整備を請け負って作業する森林組合や林業会社の4者が協定に署名し、そこに森づくりコミッション会長(県議会議長)が立ち合い人として参加します。

企業の森への関わり、最近の傾向は?

以前は社会貢献活動として森に関わりたいという企業が多かったのですが、今はSDGsに貢献する企業の経営戦略としての取り組みが多くみられます。こちらからは、社員の福利厚生、心身の健康増進のための森林浴・森林セラピーなどのプログラムを含む活動を提案したり、森林蓄積量が増えていることから木材利用の取り組みとして県産木材を使ったものづくりなど、そういったご提案もしています。

傾向としては、植栽をしたいという相談が多い状況です。木を植えるというのはやはりシンボリックな行為ですからでしょうか。伐採して、またそこに新しい木を植えてという循環が大切と企業のみなさまにご説明しますが、「木を伐るのはイメージダウン」と思っている方はいまだに多くみられます。

あと最近多いのは、森林林業の現状と課題とか、森はこうやって守るとか、この作業が必要ですとか、そういったことをレクチャーして欲しいという依頼です。企業幹部の方が20人ぐらい下見に来こられたので、40〜50分ほどのレクチャーしたところ、それを新入社員研修に使いたいと。若い方にも知って頂くのはいいことですよね。そういうことによって、森づくりのことがもっと理解されれば、意識も変わってくるかもしれないと期待しています。

山梨県は平成20年、CO2吸収認証制度を設けました。近年、カーボンニュートラルの動きの中で、CO2吸収認証制度を適用して吸収固定量を確保するために植林や間伐をする企業も増えてきました。企業からの相談の中には、認証を受けて数字を出したい、オフセットしたいというケースも多いです。

やまなし森づくりコミッションは民有林を中心とした支援体制

企業へのPR、働きかけはどのように行っていますか?

森づくりコミッションは全国にありますが、山梨は一番はじめに設立されました。それで当時、東京、神奈川、千葉、埼玉、などの企業にお知らせしたいと思い、2000社ぐらいにダイレクトメールでアプローチしました。また、東京都内でのイベントとして有楽町でフォーラムを3度ほど開催し、120社ぐらい参加いただき盛り上がりました。そこで出会った会社からその後何社か相談がありました。森の現状や課題をお知らせするためにもこのフォーラムは良かったと思います。

現在はSNSなどで周知し、フォーラムもオンラインも活用して開催したりしています。昨年でちょうど設立15年でしたので、企業の森の活動事例集をつくっているところです。

これまでに苦労されたこと、印象にのこっていることは?

やはり最初に東京都内で開催したフォーラムは印象深いです。山梨の森林の話を、東京で聞いてくれる企業なんてあるのだろうか、1社も集まらなかったらどうしようと不安でしたが、予想以上に多くの企業さんが参加してくださって、本当にありがたかった。その時からいまも続いているご縁もあります。

企業の森の活動状況を教えてください。

今は30社ぐらいが山梨県内で活動をしています。長く続けてきたところもあるし、最近、活動を始めたところもあります。エリア別で一番多いのは笛吹市です。ここは一つの認定NPO法人が入っていることもあって、市町村が非常にウェルカムで、10箇所以上の企業や団体の森があります。あとは北杜市が多いですね。八ヶ岳の麓で景観が良いロケーションなので、北杜市にご案内すると、「車を降りた瞬間に癒されました!」など、企業の方が感激されますね。

山側から見下ろした甲府市内の様子。盆地の向こう側に富士山も望めます。

令和4年は、協定を結んだのが6社でした。ご相談をいただいてから、早ければ半年で協定締結まで進むこともありますし、長い場合は1年以上かかったものもあります。

森林の所有形態でいうと、やまなし森づくりコミッションでは県有林以外を対象に企業に紹介しています。できるだけ民有林を企業のみなさまに支援していただくという方針です。市町村有林とか財産区有林なども対象としています。

これは当初からの方針なんですが、県有林は基本的に「企業の森」候補としてご紹介はしていません。山梨の県有林はかなりの規模でFSC認証を取得しており、日本のFSC認証林の3分の1は山梨県有林です。県有林の森林整備、維持管理はしっかりとできているので、手入れの遅れた民有林の維持管理にこそ、企業の方々のお力を借りたいのです。

「セブン&アイ・フードシステムズの森」について

企業さんとの具体的な協定事例について教えてください。

令和3年5月に山梨県と環境連携協定の締結をされたセブン&アイ・フードシステムズさんが、その協定の中の一つとして森づくりを進めたい、植栽から始めたいと相談があり、地域の造林会社におつなぎして、目的や要望に合う森を紹介しました。

そして、やまなし森づくりコミッションが仲立ちをして、令和3年11月にセブン&アイ・フードシステムズさんと、北杜市、藤原造林さん(造林会社)、所有者である地元の財産区の4者が、5年間の森林整備協定を締結しました。

「セブン&アイ・フードシステムズの森」の入り口に立つ看板

令和3年の暮れには除幕式を行って、森に企業名の看板が立ちました。令和4年6月に植樹、同年11月に下草刈りと、今までのところはこの3回、活動されています。毎回20人程でしょうか、コロナ禍ということもあって地元で勤務する方々やそのご家族が中心のようですが、お子さんから70代ぐらいの方まで幅広く参加されています。

そのプロジェクトはどんなふうに始まってどう展開しましたか。今後の計画は?

セブン&アイ・フードシステムズさんの場合、はじめに県と環境保全に関する協定を結んでおられましたので、やまなし森づくりコミッションが入ったのはその後からです。同社で環境プランナーを担当されていた中上 冨之さんとお会いしたきっかけは、ここにも仲立ちしてくれる方が居まして。環境カウンセラーの関根久仁子さんという方がご紹介くださって、初めて中上さんとお会いしました。

中上さんは、はじめから「植栽をやりたい」という要望がありましたので、地域で持続可能な森林経営に熱心に取り組んでいる藤原造林さんをご紹介しました。藤原造林の社長さんと中上さんは意気投合されたようで、ここで一緒にやりましょう!と。ちょうど伐採が必要な森があったので、伐採後の森づくりを「企業の森」として取り組むことになりました。所有者の地元財産区とも相談の上、広葉樹と針葉樹の混交林をつくるという方針になり、記念樹にヤマザクラを選び、カラマツの他、クヌギやクリなど、実がなる広葉樹などを植えました。他の企業の例ではヒノキやカラマツの一斉林をつくることもあり、これは森林所有者の希望にもよります。広葉樹はむしろ少ないほうですね。

セブン&アイ・フードシステムズさんの場合は、ご相談があってから3、4カ月とかなり早いペースで協定の締結ができました。森林所有者である地元の財産区の方々もウェルカムでしたし。みなさんの思いが一緒になれば良い方向にスムーズに進むのですね。義務感ではうまくいかない。目的をもってそれを達成するための手段としてこうしたい!という思いが明らかで強いと、他の関係者にも通じる。応援してくれる人も出てくる。そういうふうに進むと、我々森づくりコミッションとしても良かったなあと。

セブン&アイ・フードシステムズの森。ピンクのテープが苗木のしるし。

もう一つ、セブン&アイ・フードシステムズさんの場合は、労働組合と一緒にやっておられるのが特徴的です。ちょうど時期悪くコロナで外食産業が厳しくなり、会社だけで経費を出すのは大変だと。そこで、中上さんが労働組合に相談して快く賛同してくれたのが大きかったのではないでしょうか。ですから、こちらで活動される時は必ず、組合の執行委員長さんなどが一緒に来られています。

Message

森づくりへの参加を考えている企業・団体へ向けて、
一言メッセージをお願いします。

島田 欣也さん
まずは森林の現状や課題を知っていただきたいと思います。また、地域が困っている問題などもご理解いただいたうえで、困っているから助けるということではなくて、企業価値の向上につながること、地域貢献の取り組みとして森づくり活動を始めていただければと思います。国土の3分の2を占める大切な森林を、しっかり次世代に引き継いでいくことも重要です。そういったところに目を向けてご賛同いただき、そのために何かしたいと思われたら、我々森づくりコミッションにご相談ください。
interview03
コーディネーター
森づくり企業

10年、20年後の後輩たちが、
森の中に分け入る体験ができるように。

株式会社セブン&アイ・フードシステムズ
中上 冨之 さん 
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