森づくりインタビュー - 佐々木 毅さん

「森づくり」について各界の著名な方に語っていただきました。

佐々木毅新理事長の専門分野は政治学・政治学史。政治思想研究の第一人者であり、小選挙区制度導入の提唱、「首相公選制を考える懇談会」座長を務めるなど、1990年代より政治改革にも深く関わってこられている。そんな新理事長に、みどりや森林への想い、また新理事長としての抱負をうかがいました。

「21世紀の社会では人生を2回生きて欲しい。
森林と接することは、生き方を考える入り口になる」

佐々木 毅さん

(公社)国土緑化推進機構理事長

1942年秋田県生まれ。1965年東京大学法学部卒。助手、助教授を経て1978年東京大学法学部教授。2001年から4年間、東京大学総長。2005年から学習院大学法学部教授。主な著書に『いま政治に何が可能か』(中央公論社)、『政治に何ができるか』(講談社)、『プラトンの呪縛』(講談社)、『政治学はなにを考えてきたか』(筑摩書房)等。2007年から(社)国土緑化推進機構理事長。

自然の循環のなかで暮らした原体験

私は、秋田県千畑町で育ちました。本当に田畑と森林しかないようなところで、当時は車もほとんどありませんでしたね。たまに車が来ると、珍しくて追いかけ回していました。排気ガスを嗅いで「なんといい匂いだろう」なんて(笑)。そんなところですから燃料は、まだ石炭も珍しいくらいで、ほとんどが薪でした。学校も薪ストーブで、秋になると、冬用の薪をみんなで山から運んだものです。自然の循環のなかで、自然の恵みを使わせてもらいながら、かろうじて暮らしていたというのが、私の原体験です。

そういう暮らしが1950年半ばまで続きましたが、今では、そんな奥深いところでも中東から石油を運んできて、それを燃やして冷暖房などに使っています。それは明らかに、どこかおかしいのですが、そういうことが過去50年の間に、日本では完全に正常なこととして受け入れられてきたわけです。一方で、使われなくなった山は荒れ、放置されています。

このように、10才〜15才くらいまでの世界と、その後の世界と、まったく違う2つの世界を体験してきました。社会というものは、本当に恐ろしいものだと思います。わずか半世紀の間で、人類が何億年と守ってきたものを使い尽くしてしまって、今度は、やれ水が足りない、何が足りないという状態も引き起こしているわけですから。

21世紀はアイデア勝負の時代

interview-sasaki日本は戦後、あまりにも単線化して、みんなが一カ所に放り込まれ、「この流れ以外は生きる道がない」といった感じの社会になっていました。そのことが高度成長を支えたのは確かですが、その反面、人間の能力を狭めてきたのではないかと思います。

これまでの国際競争は、なるべく安くてよいものをたくさんつくって売りまくる、というものでした。しかしここへきて、新しいアイデアをめぐる国際競争に変わってきています。21世紀には、環境問題や高齢化など、20世紀にやり残した問題がたくさん出てきていますが、こういうものに対してどういうアイデアで立ち向かうか、21世紀の社会をどういうアイデアをもって生き抜くかの勝負です。そしてその主役は、国民一人ひとりなのです。

ですから、政治も、これまでのように経済にだけ関心を向けるのではなく、いろんな問題に対して国民の関心を喚起したり活動を応援していかなければならない時代になりました。先進国の政策は、そういう方向に動き始めています。

もちろんそれは政治だけの問題ではなく、国民一人ひとりの問題にもなってきます。そこで私がいつも言っているのは、「これからは、2回生きてください」ということです。つまり、ひとつの人生では、ご飯を食べるためにしっかり仕事をしなければならないのですが、もうひとつの人生では、ボランティア活動も含めて、自分のエネルギーを21世紀の社会を維持するために使ってください、ということです。定年後にいろんな活動を始める人が多いようですが、それは大変結構なことです。ここ数年で定年になる人たちは、日本の戦後50〜60年間で、いろんなものをストックしてきているはずですから、それを自分の内に囲い込むのではなく、ぜひ社会に還元してもらいたいですね。

そんなふうに人生を2回生きてもらうためには、自分の人生をプランする気持ち、心構えが必要ですが、それは誰かが命令できることではなく、教えられるものでもありません。社会全体の雰囲気が変わっていくことが必要です。そういう意味でも、例えば市民による森林づくり活動のような、日常的に人々の関与と関心を求めるものが日本国中に広がっていくことが、私は非常に大事だと思います。それが、自分の生き方を考えてもらうための、ひとつの大きな入り口になるのではないでしょうか。

思考の時間軸を長くもって欲しい

意識を変えるというのは、つまりは思考の時間軸を変えるということです。戦後50年の日本は、自分の時間軸をどんどん短くして自分を押し込め、そのなかでアウトプットを高めるべく、いろんな工夫をしてきました。しかしこれは、自分を非常に狭く管理してしまった、大変もったいない生き方だったのではないでしょうか。私は、そこをなんとか変えなければならないと思っています。

自分のことしか考えない人は、自分の寿命より長いことを絶対に考えません。そういう意味でも、森林というものは50年、100年という時間軸を持っていますから、自分の時間軸を変えてみたいという人にとって非常によい素材です。自分よりも寿命の長いものと付き合うことは、自分の人生を見定めることにもつながると私は思います。

日本社会にとって大きな転換点に来ている今、国土緑化推進機構の理事長を務めさせていただくことになりました。これまでの理事長の方々が一生懸命やってこられたことを引き継ぐのはもちろん、こういう環境のなかであらためて組織の存在意義を明確にし、皆さんに分かっていただくための努力をしていかなければならないと考えています。

※『ぐりーん・もあ 38号(2007 夏)』(国土緑化推進機構 発行)から引用しました。