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森づくり事例報告

人生の節目の贈り物 プレゼントツリーを企業とともに

人生の節目の贈り物 プレゼントツリーを企業とともに

認定特定非営利活動法人 環境リレーションズ研究所

令和3年度林野庁委託事業「国民参加の森林づくり総合推進事業報告書」より

事業(活動)の内容・仕組み

プレゼントツリーは、認定特定非営利活動法人環境リレーションズ研究所が 2005 年から手がける、苗木の里親を募って再造林放棄地の植栽活動を行う 1 カ所あたり 10 年間のプロジェクトである。
「贈り物に樹を植えよう!」というコンセプトのもとで苗木の里親の募集はおこなわれている。プレゼントツリーへの寄付者は、そのまま苗木の里親になるわけではない。その寄付は、環境リレーションズ研究所を介して、結婚・出産・誕生日・入学等の記念日や人生の節目の贈り物として指定した第三者に贈られるのであり、苗木の里親は、その植樹証明書を贈られた第三者となる。

寄付金額は、植栽地によって 1 口 4,500 円から 10,000 円の間で定められており、そこには、苗木代、施業管理費、植樹証明書・メッセージカード・植栽地カードという寄付者から贈り先へのギフトセットが含まれている。
苗木の植え付けや森林管理は、植栽地の所有者・行政機関・森林組合等の森林施業者・環境リレーションズ研究所の四者間協定に基づいて行われており、1ha あたり 2,500〜3,000 本程度の広葉樹の植え付けが協定開始後当初数年で行われ、3 年目から 8 年目までが下刈り期間、その後 10 年目までは見回りというのが標準的な森林管理の方法である。
また、「Present Tree の森」では、コロナ禍以前は、交流植樹イベントも定期的に開催されていた。1 人あたり 3,000〜5,000 円ほどの参加費で参加できるように設定されており、森に親しむための日常の動線をつくるための入り口としているという。

事業(活動)を始めた背景・理由・経緯について

本事業を始めたのは 2005 年。日本人は「森を守ろう」というと 9 割方賛同するにもかかわらず、実際に森に来たことのある人があまりにも少ないという問題意識から、人びとの「日常の動線上に森を位置づける」ことを考えるなかで、贈答の習慣が年平均 4 回あること、記念樹という習慣があることから、事業の仕組みを思いついたという。当初は、理事長が企業として環境マーケティングリサーチに取り組むなかで、取引先に実施を提案してきたが、引受先がなかったため、みずから手がけることになった。
また、再植林が経済的に成り立たないことから皆伐放棄地となった森林に対する関心も、この事業のスキームを考えるうえでは重要なポイントになった。

事業(活動)の成果・効果

プレゼントツリーの植栽地は、これまでに国外 2 カ所を含み、累計で 33 カ所を数える。現在の植栽地は 9 カ所となっている。山梨県での取り組みのように、同じ行政機関や森林組合とともに、複数の植栽地をプレゼントツリーの用地としている場合もある。
プレゼントツリーへの寄付者の比率は、個人が 1 割、9 割が企業等の法人となっている。
個人からの申し込みは、Web経由で月 40〜60 件となっている。普通の市民が参加できるようなしかけとして、植樹証明書のほか、デザイナーがこだわりをもってつくったアイキャッチとなるような植栽地カードが用意されている点も、特徴に挙げられる。

事業(活動)をスタートするまでの経過

植栽地の候補は、理事長が環境リレーションズ研究所の立ち上げに至るまでに築いてきた林政関係のネットワークのなかで見つけてきた。現在では、植栽地の地元から話が入ってくることが多い。
協定締結に至るまでには、平均で 2 年かかり、最短で 3 か月、最長で 5 年という実績がある。立木の権利を所有者に残す仕組みとしているが、地権者やその家族の同意を得られるかどうかが、協定締結に向けての鍵となる。
森林管理にかかる費用は、2〜5割ほどの枯損率の想定を含む10年総額の原価を最初に割り出している。
森林管理には造林補助金等も活用されるが、それでもまかなえない金額を割り出すことで、1 口あたりの金額が設定されている。こうした原価の積み上げは、認定特定非営利活動法人格として、対価性がないということを示すために必要なことである。

今後の展開方向

唯一自前で植栽地を所有してプレゼントツリーを展開することとなった「熱海の森」。ここでの経験を通じて在来種の育成の重要性に気づいたことに示唆を得て、「アーバン・シード・バンク」プロジェクトという新たな取り組みを 2015 年から展開している。
これは、在来種の寄せ植えプランターの販売を通じた都市緑化の仕組みで、販売を通じて得られた資金は、本プロジェクトに協力して里山種苗を提供する里山ネットワークの森林の管理費用に充てられる。 このプランターを活用して、手のひらサイズの「里山 BONSAI」をつくる、「BONSAI ワークショップ」などの取り組みも行われている。

事業(活動)の課題、行政・施策等への要望

事業の課題は、森林管理の担い手の育成である。本事業を開始した当初の地元のニーズは、補助金でカバーできない資金の供給という点にあったが、現在ではむしろ、関係人口の増加等、地域の活性化のほうに力点が置かれている。また、管理マニュアルで定められている作業の遅延が発生するようになりつつあるなど、地元の担い手不足の影響がみられる。そうしたなかにあって、今後の委託先を確保していくにあたっては、造林労働にかかわる「プチ林業家」を自前で育成する仕組みを構築することが必要となる可能性があり、現在その方法を検討している。
また、行政・施策等の課題の一つとして挙げられるのは、森林の利用をめぐるマッチングの仕組みをつくることである。プレゼントツリーの仕組みにおいては、森づくりコミッションは重要な役割を果たしているところであり、同様の仕組みがどの地域にもあるとよい。
国土交通省と林野庁、地方自治体など、行政機関の間で情報がばらばらに保有されていることも課題であるので、行政機関間での森林に関する情報の一元化も望まれる。
さらに、森林環境譲与税については、自治体によっては基金化されて実質的に塩漬けにされてしまっている側面があるので、使える人と動ける人とが共同して機動的に使えるようにしてほしいという要望もあがった。