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森づくり事例報告

企業・地域とともに将来を見据えた「多様性のある森」を目指して

企業・地域とともに将来を見据えた「多様性のある森」を目指して

一般社団法人 more trees

令和3年度林野庁委託事業「国民参加の森林づくり総合推進事業報告書」より

事業(活動)の内容・仕組み

2007 年の団体設立以来、「都市と森をつなぐ」をテーマに、各地の市町村との森林包括協定をもとにした活動を展開。主に、

  1. 森林整備の推進:間伐をメインに、手入れが不十分な林分への施業費をサポート(原資は企業の寄付金メイン)
  2. カーボンオフセット:J クレジットの創出サポートおよび買い手とのマッチングを通じ、クレジットの対価を地域に還元
  3. 木材利用:オリジナル商品や企業とのコラボ商品、ノベルティなどの地域産材を使用した木製品の販路開拓
  4. 普及啓発:ツアー、セミナー、イベント等を通じて森林の魅力や課題の発信などを展開

事業(活動)をはじめた背景・理由・経緯

これまで、国内 16 カ所の市町村と森林協定を結び、森林整備においては間伐を中心に活動を進めてきた。一方で各地では、

  • 拡大造林により急傾斜地や奥山までもが単一な針葉樹人工林に転換されたが、さすがに樹種が偏りすぎてしまっているので、広葉樹の比率をもう少し上げたい
  • 皆伐地への再造林が思うように進んでいない
  • 伐期を迎え、伐採したいが再造林のコストを捻出する余力がない
  • できれば再造林の際には広葉樹を植えたい

事業(活動)の成果・効果

といった動きがある。

植林、育林に要する費用は基本的に企業寄付によって賄うことを想定しており、「企業の森」を地域に誘致することで各地の植林活動を展開している。これまで 9 市町村において 11 社が参画し、14 カ所の植林活動が並行して進んでいる(下図)(※内定含む。なお 1 社で複数地域の展開事例もある)

なお、各社は最低 3 カ年は同一地域でのサポートを継続する旨、契約に盛り込まれている。
コロナ禍ではあるが、各企業の社員を対象にした視察や植樹イベントも小規模で実施している。

事業(活動)をスタートするまでの経過
(どこかと相談・連携したのか、最も苦労したところは何か、etc)

コンセンサスの形成

リソースの確保

植林には、1)土地、2)人、3)苗木 の確保が必須であるとmore treesは考えている。
(下図。なお資金も必須ではあるがここでは言及しない)
しかしながら、

  • 意外と植林地の確保が容易ではない(皆伐地が個人所有である場合、公共性において不透明であり企業の資金を入れることに対して慎重に検討する必要がある)
  • 市町村有林を樹種転換したいがまだ立木が存在しており、伐採の目途が立っていないケースもある
  • 森林組合や林業会社が抱える作業班は素材生産や間伐を目的としており、植林に回す人的余力がない
  • 植林、育林を担えるノウハウを持った人材が不足している
    (more treesでは、作業を習熟度の低いボランティアに過度に依存してしまうと活着率の低下や草刈り時の誤伐リスクが高まると考えている)
  • 広葉樹の苗木が流通しておらず、土地や人が確保できても苗木が揃わずに植林が進められないケースも過去にあった。県外から調達せざるを得ないケースもあるが、遺伝的攪乱に配慮するうえでも県内(できれば市町村内)での供給が望ましい

こうした課題は一朝一夕には解決できないことから、市町村と密に連携しながら中長期的な視点をもとに確保していくことが重要であると考え、役場担当者や関係者との対話を継続している。

1)土地
日本の森林の 4 割を占めるスギやヒノキなどの人工林は、その多くが植林されて 50~70 年が経ち伐採(収穫)可能な時期を迎えている。こうしたことから近年では全国で人工林の伐採(皆伐) が増加傾向。
伐採(皆伐)面積は増加傾向にあるので、植林のポテンシャルがあることは事実。しかし土地の所有者が誰なのかを知る必要がある。所有者が国や県、市町村などの行政や財産区など公共性が高いセクターの場合、土地の所有権や施業ポリシーが将来に渡り急変するリスクは小さいのでさほど心配する必要はない。
一方で個人所有者の土地の場合はやや注意が必要。もし地権者と植林の合意形成がなされたとしても、たとえばその地権者が亡くなって次世代に山林が相続された途端、理解が得られなくなる可能性が無いとも言えない。もしくはメガソーラーに転換したほうが収益性が高いからという理由で、これまでの方針が覆されることなども考えられる。
こうしたことから、仮に再造林放棄地があったとしても、その土地が果たして永続性が担保されているかどうかが鍵となる。ちなみに個人所有の山林の場合、地上権の設定などによって永続性を確保する方法も考えられる。

2)人
植林には、植える前の下準備である地拵え、そして植栽、さらにはその後の定期的な草刈りなどの育林、獣害対策などが必要。それを中心的に担う人は、地域外からのボランティアではなく地元の人であるのが理想であり、さらにそれはボランティアではなく生業の一つであることが持続可能であるとmore treesは考えている。
しかし、近年の林業においては間伐・主伐やそれに伴う造材がメインとなっており、森林組合や林業事業体の作業班はその領域を担う最低限の人材で回しているため、なかなか植林の分野に人を割けないことも多い。このように人の確保も欠かせない要素である。

3)苗木
意外な盲点が、苗木である。この半世紀、日本で「植林」といえば針葉樹であるスギやヒノキ、カラマツなどが主流だった。こうした樹種は、各地で苗木の生産・供給体制が確立されている。
一方で広葉樹の苗木は針葉樹に比べてまだまだニーズが少ないことから、供給は不安定。本来、苗木は地元産が望ましいとされているが、希望する樹種の苗木がそもそも調達できなかったり、調達できたとしても遠く県外から取り寄せざるを得ないケースもある。
※苗木は地元産が望ましい理由については別コラムで。

このように、「土地」「人」「苗木」の三拍子が揃っていないと植林は実行に移せない。

今後の展開方向

  • 森林づくり協定地域の拡大
    関東、近畿などを中心に、森林づくりを協働で進められる地域を選定中。(前述した、土地/人/苗木の条件が比較的揃っていて、かつオフセットや木材利用にも前向きな地域をメインに)
  • 「企業の森」の推進
    脱炭素、SDGs/ESG といったキーワードが後押しし、企業からの森林への注目度が高まっている。今後、さらに「企業の森」を増やし、施業(植林)面積を増やしていきたい。
  • 研修、勉強会の継続 人材育成
    依然として、
    ・「多様性のある森」に対して関心があるものの、実際にどのように進めたらいいか躊躇している
    ・広葉樹主体の植林に着手はしているものの、まだ手探り状態で育林を担える人材が育っていない
    といった市町村が多いことから、有識者を交えた勉強会や研修会を継続的に続けていく。
  • 苗木の安定供給化
    前述のとおり、広葉樹の苗木は調達に苦慮するケースが少なくない。(株)中川の事例も参考に、各地において地元主体の苗木生産を促したい。そのためには、苗木の需要も安定的に伸ばしていく必要があることから、「企業の森」の維持拡大が欠かせない。

事業(活動)の課題、行政・施策等への要望

CO2 吸収量の見える化

  • 前述のとおり、企業が森林分野に参画する最大の動機は「脱炭素」である
  • 拠出した資金がどのような成果を生んでいるかを判断する物差しの一つとして、植林による CO2 吸収量を把握したいという企業が多い
  • しかしながら、J クレジット制度に準拠するには事業規模、手続きの労力やコストの面から現実的ではない
  • そこで、吸収量算定の簡易ツールの構築に期待する

高知県、長野県など吸収証書を発行する県もあるが、より容易に算定できる仕組みは便利である。もし植林活動にコミットしようと検討している企業が、事前に吸収量を把握することができれば、自社の目標削減量から逆算して相当分の面積のための予算の確保も期待できるのではないか。

広葉樹の苗木確保に向けたサポート

針葉樹の苗木は、林業種苗法 により移動範囲の制限(配布区域の指定)がある。しかし、広葉樹にはその規定がなく、全国どこへでも苗木を流通させ植栽することができる。本来、天然の樹木集団は長期的な気候変動に対応してその分布域を変遷させながら生き残ってきたので、同一種でも地理的に遺伝的な違いが生じていることが多い。遺伝子攪乱の問題も指摘されていることから、地域での苗木生産が求められている。今後、広葉樹の育苗に関するガイドラインの策定や、樹種毎の育苗方法の手引きなどの普及が求められる。