森づくりインタビュー - 水木 しげるさん

「森づくり」について各界の著名な方に語っていただきました。

昨年6月、新聞紙上に掲載された「美しい森林づくり推進国民運動」のPR広告では、ゲゲゲの鬼太郎がイメージキャラクターを務めてくれた。そうした流れから、全国で「鬼太郎の森づくり」を進めようという動きも出てきている。さて鬼太郎の生みの親と言えば、ご存じ、水木しげるさんである。今回はその水木さんに、森林への想いを語っていただきました。

「妖怪を見るにも、森林を楽しむにも、
まずはゆったりと生活することが大事」

水木 しげるさん

漫画家

1922年、鳥取県境港市生まれ。太平洋戦争でラバウル戦線に従軍し、左腕を失う重傷を負ったが、無事に復員。紙芝居作家、貸本漫画家を経て、1964年に『ガロ』創刊号にて雑誌漫画デビューを果たす。1965年に『テレビくん』で講談社児童漫画賞を受賞し人気作家となる。以後『ゲゲゲの鬼太郎』『河童の三平』等ヒット作多数。1991年紫綬褒章、2003年旭日小綬章を受章。

島根半島の森林は妖怪の巣

私は鳥取県の境港で育ちました。境港のある弓ヶ浜半島には、森林というものがありません。でも、境水道を挟んで目と鼻の先にある島根半島には、鬱蒼とした緑の森林があります。この水道を渡って島根半島の森林に行くのが大好きでした。今では境水道大橋という橋ができていますが、私が子供の頃はまだ、渡し船で渡っていました。

島根半島は海からすぐ山ですから、民家がとても少なくて、純粋な自然があります。森林で遊ぶといっても、ただ山に入って登るだけでしたけれど、それだけでも気持ちがいいんです。山の裏の日本海側まで行っても、やっぱり人が少なくてね。

もっと先まで行くと美保関や美保神社があって、ここには大昔から神様がいます。私は小学校3年生か4年生のころに初めて行きましたけれど、神社の前の海の中まで石畳になっているのが、とても不思議でね。日本の森林はもともと、神様がいるようなところですけれど、島根半島の森林も、神代の時代から何も変わらないような感じでした。

その頃、私の家にはお手伝いのお婆さんが来てくれて、たくさん妖怪の話をしてくれていました。神様と妖怪というのは、同じような世界にいるものですから、子供の頃は島根半島が妖怪の巣だと思っていました。今でも島根半島は人家が少なく、明かりもトボットボッとしかありませんから、妖怪が暮らすには具合がいい森林がありますよ。

闇が多かった昔は、妖怪がたくさんいました。やはり闇には、いろんなものが出てくる余地がありますから、魅力があります。闇があれば、それだけ想像する範囲が広がったんですね。今はどこでもピカピカ明るくて、妖怪は暮らしにくくなっています。それに、闇夜にお爺さんやお婆さんがゆっくり、しみこむように語るから、妖怪に実在感が湧くんです。若い人がいい加減に語ってもダメですね。

南方のジャングルは多彩で面白い

interview-mizuki2

私にとって森林といえば、この島根半島の森林と、もうひとつは戦争で行ったニューギニアのジャングルです。

10人で敵と対面する最前線に行かされたんですが、敵にやられて私だけが生き残ってね。それから5日間、ジャングルの中をひとりで逃げました。なんとか50人の中隊に戻ったけれど、今度はマラリアで動けなくなって。マラリアにかかると、最初は体がだるくなって、だんだん熱が出てきます。熱が出たらもう、次は死ぬだけですよ。私もそうなりかかっていたんだけれど、あんまり働かないようにしていたから、なんとか助かりました(笑)。結局そこでも、生き残ったのは私を含めて4人だけ。

それでも南方のジャングルというのは、とても面白かったです。日本の森林よりもいろんな生き物がいて、とても多彩な感じがします。現地の人たちの集落には、散歩に良いような道がちゃんとついていました。自動車なんかは少なくて、なんとなくのどかで、美しいと思いました。戦争で行っていたのだから、本当はそれどころではなかったんだけれど(笑)。

森林を体験するには、南方のジャングルも悪くないのですが、マラリアの蚊がいるから、あんまりものすごいところまでは行かない方がいいでしょう。やっぱり森林を楽しむならば、日本の方が向いているかもしれませんね。

妖怪が見える人と森林を楽しめる人は似ているかも

今は妖怪ブーム? ほぅ、そうなんですか。やはり人間は、珍しいものに触れたいという願望がありますし、生きているのが楽しくないから、訳の分からないような妖怪に触ってみたいんでしょう。今の世の中は楽しいものがなくなっちゃって、もう妖怪とかお化けくらいしかないんじゃないですか。

大人たちは、せかせかと給料をもらうために働いています。子供だって、小さい頃から競争にさらされて、油断がならないわけです。それで成功する人もいるわけですが、そういう暮らしを見ていて、あまり幸せだとは思わないですね。そういう人には、妖怪は見えないんじゃないでしょうか。妖怪というのは、ゆったりした気持ちを持っている人だけが見ることができるんだと思います。

妖怪が見える人というのは、余裕があって空想力もあるわけですから、幸せですよ。森林を楽しめる人というのも、もしかしたら妖怪が見える人と似ているかもしれません。生活に追われている人は、森林に行っても楽しむどころじゃないでしょう。妖怪を見るにも、森林を楽しむにも、まずはゆったりと暮らすことが大事でしょうね。

※ 『ぐりーん・もあ 41号(2008 春)』(国土緑化推進機構 発行)から引用しました。