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企業の森づくり

事業事例

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全国初となる町営での林業アカデミーを開校

事業(活動)の内容・仕組み

日南町は、人口最少県である鳥取県の中で、一番高齢化率の高い町であり、町面積の9割を森林が占める自然あふれる地域となっている。農林業を町の基幹産業とし、標高の高い地域ならではの朝晩と日中の気温の寒暖差を活かした、食味値の高いお米やトマトなどの農産物の生産振興に注力している。

また、日南町が取り組む環境の力を活かした持続可能なまちづくり、脱炭素社会の実現を目指す町の取り組みが県内外の教育機関から着目され、修学旅行の受け入れやSDGs学習の教育拠点として多くの児童・生徒が来町している。都市部の大学との連携も積極的に進め、都市と地方の交流、「観光」から「環境」教育の誘致等も行っており、関係・交流人口による環境の力を活かした町の成長へ向けた新たな息吹をもたらしている。

高校生によるSDGs修学旅行の受入

事業(活動)を始めた背景・理由・経緯

古くから「たたら製鉄」により雇用と所得を確保し、森の恵みを享受しながら、ひとつの時代を築き上げて来た。戦後、町内の天然林伐採跡地には、スギ、ヒノキなどが植林され、現在、それらの多くが伐期を迎え、鳥取県の年間素材生産量の約1/3を占めるに至っている。町の財産である恵まれた森林資源を余すことなく活用する取り組みとして、木材を使い切ることで新たな循環型林業を構築し、林業の持続的な成長を目指している。

木材の流通、加工、販売を目的として、LVL(単板積層材)製造工場を中心に、年間12万立米の林材が集まる林業拠点があり、町内では木材を活用した新たな産業も生まれている。家具や建物を解体した際に捨てられる木材を使って、寄木のアクセサリーやSDGsをイメージした寄木のバッジなど、林業のみならず付加価値のある森林の新しい産業の起業も盛んである。幼少期に誰もが一度は使用したことのあるサクラクレパスの創業者が日南町出身であり、同社と寄木細工がコラボした商品も製作し、ふるさと納税の返礼品として活用している。

事業(活動)の成果・効果

日南町では、町面積の9割を占める豊かな森林を地域固有の資源と捉え、低炭素社会実現へ向けた脱炭素化に取り組む企業の環境意識の醸成と実行支援、持続可能な森林整備への財源確保を目的として、町有林を対象にJ-クレジットを取得。

J-クレジット購入企業との仲介は、地元企業と結びつきの強い地域金融機関が行っている。仲介のスキームであるJ-クレジット地域コーディネーター制度の創設、J-クレジット購入企業へのSDGs研修の実施など、圏域におけるSDGsや脱炭素社会の実現へ向けた取り組みを地域金融機関と協働している。

その結果、地球温暖化対策や脱炭素といった環境意識、SDGsやESG経営といった企業の意識変化も追い風となり、令和3年度には単年で100社を超える企業から約1,900tの契約を結び、令和4年度においても80社を超える企業から約1,200tの契約を行っている。

こうした地域金融機関とタイアップした販売戦略は全国の優良事例として注目されており、総務省ふるさとづくり大賞、内閣府地方創生SDGs金融表彰、NIKKEI脱炭素アワード大賞なども受賞。現在、クレジットの販売収益は、循環型森林の実現を目指すべく、町内の民有林も含めた新植の財源として活用している。

調印式

また全国的に担い手不足にある林業の担い手を育成するため、全国初となる町営での林業アカデミーも令和元年度に開校した。一期生、二期生は共に7人だったが、令和3年度には学校の認知度の高まりと共に定員を上回る13人が入学。持続可能な林業を定着させていくため、高度な知識と豊かな経験を持つ人材の育成に努めている。日南町の林業アカデミーの特徴の一つに、卒業後の就職先を町内に限定していないことが挙げられる。これは、全国的に担い手が不足している林業業界全体の底上げを図りたいとの思いからである。令和4年度以降も毎年10名を超える学生が入学し、1年間の林学・林業で必要となる資格取得を行ったのち、森林を守るフォレストマネージャーとして全国で活躍する人材の育成を行っている。

事業(活動)をスタートするまでの経過

日南町では、平成24年度から、農林業の継者不足に対応するべく、全国に先駆けて農林業研修生を実施。広く町内外から研修生を募集し、研修後に農林業の担い手として活躍する人材の育成を行ってきた。しかしながら、全国で同様の制度がスタートしたこと、また農業と林業の研修の仕組み、必要となる資格取得も異なることから、林業分野を独立させ、町営による林業アカデミーの開校に至った。

今後の展開方向

1年間で即戦力の林業人材を育成する林業アカデミー。いま日南町では、将来、林業を志したいと願う人材の育成を行っており、一生涯を通じた森林教育プログラムを町全体で構築している。また、鳥取・島根・広島・岡山という中国地方のど真ん中である立地条件も生かし、県境を越えた圏域での林業人材の掘り起こしも行っていく。

事業(活動)の課題

2019年には、基幹産業である農林業を基軸とした「第一次産業を元気にするSDGs~にちなんチャレンジ2030」をテーマに、国からSDGs未来都市に選定された。日本が直面する過疎・少子高齢化といった課題に正面から立ち向かい、日南町の取り組みが「日本の30年後の姿を創る」という自負を持ったまちづくりを行うため、産学金官の多様なパートナー、ステークホルダーと連携し、新たな経済循環を促す取り組みを推進する必要がある。

農業・農村を含む中山間地域の「価値」が見直されている中で、「日本の30年先の姿」といわれる自治体として、私どものまちづくりの取り組みが日本の中山間地域の未来・モデルを創るという自負を持ち、「共創と協働」をテーマに、SDGs・持続可能なまちづくりへの挑戦を続けていく。