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企業の森づくり

事業事例

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地域の企業やこども達との連携・協力による熊野の森再生事業

令和3年度林野庁委託事業「国民参加の森林づくり総合推進事業報告書」より

事業(活動)の内容・仕組み

熊野の森再生事業は、和歌山県田辺市の育林に特化した林業会社である株式会社中川が 2020 年に開始した、地元中小企業や地域の子どもたちと連携して、どんぐりから苗木を育成して植栽する事業である。協定を結んだ地元企業 10 社が、家族や地域の子どもたちとともにどんぐりを拾い、その苗木を空き地や耕作放棄地で育てている。育てられた苗木を 1 本 500 円(ウバメガシの場合)で株式会社中川が買い取って植栽・管理を行う。
参加する企業は、1,000 本単位で育苗をし、苗木代の収入 30〜40 万円に加えて補助金を活用することで、0.5haほどの企業の森を設けることとなる。企業が負担するのは、この他、看板の設置等の広報活動にかかる費用 5〜10 万円である。株式会社中川は、苗木不足に備えて、自前で苗木を確保することができる。
植栽地は、所有者が造林・育林費用を出せないという場所を見つけて確保している。そうした場所は奥まった場所にある場合が多いので、広報用の看板は、植栽地そのものに設置するというよりも、その入り口になるような場所に別途設置するような工夫をしている。

事業(活動)を始めた背景・理由・経緯

本事業を始めたきっかけとなったのは、紀州備長炭で有名な和歌山県で、ウバメガシの山をつくっていこうと考えたときに、和歌山県産のウバメガシの苗がないと気づいたこと。自分たちが山づくりをがんばった結果、県内のお金を県外に苗木代というかたちで流出させてしまうことを避けたいが、かといって、自前で苗木づくりをするには土地が足りない、というなかで考えついたのが、人口減少や事業縮小で土地が空いている中小企業から協力を得て、どんぐりから苗木をつくる「町の人みんなを巻き込んで苗木づくりで儲けられるような仕組み」だった。

事業(活動)の成果・効果

本事業は、2020 年グッドデザイン賞を受賞した。また、一般社団法人日本 SDGs 協会の SDGs 事業の認定も得ている。
現在は育苗期間中で、2022 年に実際に植樹を行う予定である。1 企業あたり広葉樹 2,000 本植えて0.5ha くらいの山をつくる計算で、あわせて 5ha ほどの植栽地はすでに用意されている。

事業(活動)をスタートするまでの経過

本事業のアイデアは3、4 人の雑談から生まれた。日本酒をつくっている一人が、「日本酒 1 本売れたら 1 本植樹し、SDGs を謳って日本酒を売ろう」と発案し、そこから、どんぐりを拾って苗木を育てるかたちにして生育状況をホームページで広報しようという話に展開した。
当初は1 社について10 人、15 人がかかわって、それが 10 社になれば、数百人がクライアントになりうるのではないかと考え、広報活動の一環として始めた。
最初に協力してくれた酒屋を営む企業の従業員のおかげで、口コミが広がっていった。そして、酒屋の従業員が山を所有していて、かつて苗木づくりをしたことや、苗を背負って山に登った経験があるというような話も広まり、実際にその所有する森林の育林について相談されるケースも出てきたという。

今後の展開方向

次年度に向けては、どんぐりづくりを子どもたちの教育分野にも取り入れようと、教育委員会とも話を進めている。
また、2021 年 7 月からは、登山アプリ・Web サービス「YAMAP」に実装されたポイント「DOMO」の寄付に応じて、熊野古道沿いの山にウバメガシを植える取り組みを始めている。開始 2 か月ほどで、全国約10,000 人がポイントを使い、300 万円ほどの資金が得られた。「山に“からみたい”と思ってはいるが、実際どうやって山にからんだらいのか分からないという人たちの“からみたい”欲求を、どんぐりを使って解消しよう」という事業として受け入れられている。

事業(活動)の課題、行政・施策等への要望

株式会社中川は、本事業にとどまらず、林業の活性化に向けた様々な取り組みを手がけている。林業活性化のために必要な施策のアイデアとして挙げられたのは、第一に、補助金をなくすことである。そのことが、企業の創意工夫を促し、ひいては林業の活性化につながるのではないか。
第二に、新規就業の際のコミュニティへの参入サポートが挙げられる。林業災害防止協会、県森連、狩猟組合等、林業で就業したり起業したりする際に、コミュニティに入る方法を相談できる人がいると、将来起業したいと思うような人材を得るサポートになる。