MENU

市民の森づくり

活動事例

case
12
case 12

マツクイムシ対策から始まった森づくりが、人をつなぎ、育て、ボランティア精神を育む活動へ

広島県安芸高田市にある土師ダムの近くの活動場所で、事務局長の櫻井充弘さんからお話をうかがいました。

─ NPO法人ひろしま人と樹(ひととき)の会について、教えてください。

櫻井:私たちの会は、広島県内で広がったマツクイムシの被害を食い止めるため、1992年に森林ボランティア団体として結成しました。1995年に広島で全国植樹祭が開催されたとき、会場整備が必要となったので、ボランティアを募ったところ、会社員や主婦の方など約200人もの人びとが集まったため、その後も決まった活動場所を定めずに県内各地で森林整備に取り組んできました。2003年には、森林に関する社会的なニーズの多様化に対応するためNPO法人格を取得しました。現在は月に2~3回、県内各地で森林整備、道づくり、自然観察など、さまざまな活動をおこなっています。現在の会員数は、個人100人、法人5団体です。

─ 櫻井さんが立ち上げられたと、うかがっています。

櫻井:はい、広島県庄原市生まれ、今年で79歳になります。
広島県の職員として林業職一筋で働いたのですが、1992年に県の担当者として、ひろしま人と樹の会を設立しました。
現在は、「森を育て、人を育て、ボランティア精神を育てる」ことを目的とする当会の理事兼事務局長という役職を担っています。

お話を伺った櫻井充弘さん

─先ほどまで活動の様子を拝見していたのですが、チェーンソーで大径木を伐採したり、重機による作業道づくりやワイヤーを使った集材など、一般的なボランティア活動のイメージを超えて、ダイナミックな作業をされていることに驚かされました。
こちらでは、どのような活動をされているのですか?

この場所は田屋城跡という城跡でして、地元有志の団体「さとやま土師 田屋城址を守る会」から当会に要請があって、2022年度から一緒に保全活動をおこなっています。
資金を集めるために、クラウドファンディングにも挑戦しました。
いまは、「お玉ヶ池」と呼ばれるため池を修復し、この池の周辺の森林を整備して、子どもたちが安全に楽しめる環境づくりに取り組んでいるところです。
山での作業は危険と隣り合わせなので、私たちは森づくりの安全管理と技術の向上を図りながら、いつも安全第一に活動しています。

─ この場所では、地元の団体から森林整備の要請があったということですが、現在、そのほかに他団体と連携・協働して取り組まれている事例をご紹介ください。

櫻井:いくつかありますが、1つ目として広島文教大学と取り組んでいる「桜守プロジェクト」があります。学生さんたちと共に、大学キャンパスの樹木を整備するプロジェクトで、環境保全や防災・減災を考え、活動を通して地域貢献や人材育成を目指しています。

─ 大学との連携は、どのようなきっかけで始まったのですか。

櫻井:2021年度に、国指定の史跡である中小田古墳群を保全するため、支障のある木竹の伐採などをおこなう山林整備事業を広島市から受託しました。この事業は地元の団体「大人のかくれ家倶楽部」と協働で実施するものでしたが、広島文教大学も比較的近くにあるので、ある先生に声を掛けたところ、ボランティア活動に参加することになったんですよ。
それがきっかけになって、キャンパスの中にも手入れをしたい場所があるからと相談されて、業者に任せている場所を見に行ったら、サクラに最近流行のこぶ病が付いていて、また、木が大きくなりすぎて間伐しないといけない状況でした。ならば、みんなで考えて自分たちでやった方がええやないかという話になって、大学と包括連携協定を結び、学生の森林整備を助けるかたちで関わっています。

─ 人と人のつながりから、新たに協働する活動が始まったのですね。
ほかにも企業等と連携している事例はありますか?

櫻井:日赤の森づくりプロジェクトでは、シンラという事業体が土地を用意して、日本赤十字社広島県支部が中心になって参加者を集めて、毎年6月と10月に植樹活動をおこなっています。私たちは、植樹イベントの際に指導をおこなっているのですが、県内各地から子どもから大人まで150名とか、180名とか参加されます。 今年からはカンボジアとの国際交流も始まって、今年は子どもたちが12人くらいカンボジアへ行って、来年はこちらへ来て植樹します。

─ カンボジアとの交流は、どのように始まったのですか。

櫻井:私の知っている人が広島県支部の事務局長で、たまたま電車の中で出会って話をしたんですよ。私が山へ行ってボランティアで木を切ったり植えたりしていることを話したら、「カンボジアと交流しとるから、ぜひ手伝ってくれんか」と頼まれたので、私も「おっしゃ、ええよ」と応えて始まったのです。

─電車の中で!
ほかに、小学校とも連携しているそうですが。

櫻井:庄原市内の小学5年生の森林や林業の体験学習をサポートしています。
1日や2泊3日の野外活動で、林業体験や木工クラフトなどを担当するほかに、事前学習として座学の授業もおこなっています。
古い学校が児童数の減少のために廃校になったんですよ。そこを「森林の学舎(もりのまなびや)」として、そこに市内の児童たちを呼んでいます。

─ 櫻井さんも庄原のご出身でしたよね。

櫻井:はい、私は庄原出身です。庄原に何か恩を返さないといけないと思っていて、市長もよく知っているひとで、市長と話をして。

─ 櫻井さんがハブになって、いろいろな人と人をつないでいるのですね。

櫻井:そうそう。県庁で長いこと勤めていたので、市町村の職員もよく知っているわけよ。だから、相談が来るんです。それで電話がかかってくると、「はい、やります」ってすぐ言うね。みんなも、よう付いてきてくれるから。
うちでできない場合は、ほかの団体を紹介したり、あなたの近くにはこういう団体があるから、そこに頼んでみたらと提案したり。

─ こうした協働の取り組みを続けるために工夫していることはありますか?

櫻井:やっぱり、地元の人たちとやると長続きしやすい。町の人に声を掛けて協力すると1回や2回はうまくいくけれど、長く続けられないことが多いです。
庄原市の小学校の森林学習は、私たちが関わって6年か7年になるのですが、いま地域に新しいグループが立ち上がったんです。

─ そのようにして、さまざまな団体と森づくり活動を長年取り組んでこられて、近年寄せられる問い合わせの内容に変化はありますか?

櫻井:最近は、学生や若者を巻き込む仕掛けに対してニーズが高まっていると感じています。次世代に向けた森林教育や地域人材の育成といった観点から、大学や専門学校との連携の問い合わせが増えています。
実際に、森林体験を通じて、自分たちの暮らしと森林とのつながりに気づく場を提供しており、学生が自主的に地域課題に関わるきっかけにもなっていると思います。
また、植樹活動にとどまらず、学び、癒し、交流、防災など、森林の多様な機能を生かした企画提案が求められています。
近年は企業の関心が、CSRやSDGsから社員のウェルビーイングへと拡がっており、これまで以上に体験型の森づくりが求められていると感じています。まだ相談件数としては少ないですが、自然の中での活動を通したチームビルディングやリフレッシュ、災害時の自助力の向上などのニーズも高まっていると思います。
そうしたニーズに合わせた柔軟なプランづくりを進めるために、森林空間を使ったワークショップや、防災教育、親子イベントなどを展開できればと。そのために、女性だけのグループを作って、新しい方向性で企画を考えてもらって任せてもいいかなと考えています。

─ニーズの変化に合わせて、新しい体験型の森づくりを展開しようとされているのですね。
本日はどうもありがとうございました。