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市民の森づくり

活動事例

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知識と技術の向上を求めて育成してきた人材が、企業の森づくりに伴走

2005年にNPO法人として設立した認定NPO法人森林の風(もりのかぜ、2013年認定NPO法人化)は現在の会員数が30名で、森林環境整備と人材育成を中心に活動されています。
今回は会長の滝口邦夫さんにお話をうかがいました。

─ 滝口さんはどういうきっかけで森づくりを始められたのでしょうか?

滝口:現役時代は、印刷関係で新聞を印刷する会社で働いていました。途中で全部コンピューター化されて仕事がなくなって配転になって、全然違う営業系に移って。
そんなとき、45歳のときでしたが、退職後の準備のためのセミナーに夫婦で参加して、そこで夫婦でやれる趣味と夫婦ばらばらでやる趣味と、アウトドア系の趣味とインドア系の趣味と、全部で4つ考えろって言われて。それで、夫婦で一緒にやれるアウトドア系として山仕事で林業は向いているなと気づきまして、島崎先生のところ(KOA森林塾)へ行ったのは大きかったですね。妻もチェーンソーを持って木を伐ってますよ。

フィールドの森を案内してくださった滝口邦夫さん

─ 滝口さんは団体の設立メンバーとうかがっていますが、どのような思いで団体を立ち上げられたのでしょうか?

滝口:山をきれいにしたいという名分と、退職したら年金だけでは足らないだろうと、自分らで5~6万円は稼げるようなこととして林業をやろうよということで、島崎先生のところへ行ったり、速水林業塾に行ったり、鈴鹿森林組合の緑の雇用のようなところに参加したりしていました。それでスタートを切ったら、ホンダ(本田技研工業株式会社)が一緒に森づくりをやりませんかと言ってきたんで、企業と提携するという方向に移ったんです。

─ ホンダが飛び込んできたのは、どういう経緯だったのですか。

滝口:定年後、木を伐ろうと動き始めたときに、ボランティアグループの事務局も手伝っていたんです。しかし、そのグループとは考え方が違うわといって、そこにおった人とNPOを作ろうかという話しになって別の団体を作った。そこにホンダから電話が飛び込んできたんです。
あとになって、なんでうちに声が掛かったん?て聞いたら、計画的に山をつくっていくからやと。実は、ボランティアグループでも計画的に山づくりをやろうと勉強会を始めてたんですよ。ところが、それはあかんて、そういうのは堅くなるから楽しくやろうよって言われて。それで楽しくやりたい人とは別に、勉強しながら山づくりをしようという人が10人集まった。その中の8人は島崎先生のところへ行ってたんで。それがどこからかホンダさんの耳に入って、三重県で計画的に活動できるのは,おたくだけやからって声が掛かったようです。
僕は両方の団体に入っておったから、ボランティア団体がええのか、NPOがええのかと聞いたら、NPO法人でなければホンダは無理ですって、一般のところとは契約しませんって、法人格を取得されるまで待ちますと言われて、待ってくれたんです。
それで、いろんな道具を買い揃えたりするために200万円は必要だという話になり、その段階で辞めた人も出てきました。ところが、ホンダ、三重県、林野庁、日本財団からお金を300万くらいスタート資金でいただいて始められた。ほかに団体がなかったから。運が良かったとしか言えません。

─ 会員さんはどんなふうにして入ってこられるのですか?

滝口:最近入会される方は、「まちのきこり人育成講座」を受講してですね。うちの会のこの講座は定員16名で、65歳までで切ってあるんですよ。これは65歳超えた人はあかんて言うてるわけじゃなくて、定年前に勉強をしてもらって、65歳になったらどんどん山へ行こうぜっていう意味です。
昨年は20代の人も受講されるなど、来ている人は若いです。奈良、大阪、京都、愛知まで、三重県はさんでぐるり全部1人ずつくらいだけど。若い人は林業やりたいみたい。
チェーンソーの安全講習の修了証も発行しているんで、林業事業体もうちに人を送り込んでくることがあります。

まちのきこり人育成講座チラシ

まちのきこり人育成講座チラシ

─ 活動の中心は、企業と一緒に森づくりすることなんですね。企業からは直接問い合わせが来ることが多いのですか?

滝口:ホンダさんと始めてから、次から次へと企業さんが来てしもうたいう感じで。PRはほとんどしていないです。ホンダの系列会社は、ホンダさんから聞いたということで電話が掛かってきます。
企業からは直接問い合わせが来る場合と、企業から県に問い合わせがあって、県から森づくりの土地はあるかなあって相談される場合があります。うちのメンバーは、うまいこと土地をつないでくれてますね。企業から希望があって、うちが探した土地として、このあたり(菰野町)の財産区はみんなそんな感じです。財産区とは初めの段階から一緒にやってきたので人脈ができたという感じかな。

─ そうはいっても、土地を探すのは大変じゃないですか?

滝口:土地探しは大変ですけれど。これもホンダさんと始めたのがスタートで、ホンダの場合、工場の上流部の森づくりがコンセプトだから、鈴鹿川の源流でなきゃだめ。その源流に鈴鹿の森林組合があったんです。
ホンダさんからは、おたくらの技術力はわからんので、技術の指導をしてくれる団体と提携ができること、10ha以上の森を整備できるという条件がありました。そのとき鈴鹿森林組合の勉強会に行っていたのが5人いるんですよ。それで相談したら、組合長が全部うちが引き受けたると、指導と山を貸すのと。あれはけっこう大きかったですよ。
三重県には、うちの会に電話したら場所を探してくれると思われているようです。

─ いろいろな企業と森づくりをされていますが、どのようなパターンがありますか?

滝口:1つめは、契約年数を決めて、企業からお金をいただき、うちで森を整備するものです。それでも寄付金とは違って、県と企業と地元自治体との間で「企業の森」で契約しています。施業の仕方が、社員と一緒におこなう場合もあれば、お金を渡して委託するという場合もあると。お金を出すだけでも、「企業の森」として広報できればいいのでしょう。
2つめは、社員が保全活動に参加したり、社員研修のお手伝いをしたりするものです。社員が10人来て、木を10本植えるだけという企業もあります。最近は新入社員や3年目社員などの研修でもいらっしゃいます。社員研修の場合は、カリキュラムに沿って来るから、グループ組んで4年先この森をどうしたらいいのかを考えるようなワークショップをやるんですよ。それに対してコメントを出さないといけなくて、うちとして大変なときもあります。社員研修はだいぶ浸透してきましたね。
3つめは、CSR活動として取り組んでいる「企業の森」で、やっていることを職員の方に理解してもらいたいと思っているでしょうし、取引先にも森づくり活動をしている企業と取り引きできているという効果を狙っているのでしょうね。

企業と連携して取り組んでいる森づくりの例

企業と連携して取り組んでいる森づくりの例

─ 企業の森づくりの最近の特徴はありますか?

滝口:企業が森づくりを次のステップにしようとしているところがあって、一昨年くらいからCO2関係で吸収量を計算してます。三重県も10年くらい前は県単独で、CO2の吸収量について知事からの証明書が出ていたんです。これから人工林の森づくりを始める場合、NPOも自分でやらないといけない。自分らの活動では10tとか15tくらいの話なんですけど、たとえ少しでも、ここの森で吸収されるCO2の量を見えるようにすることは大事だと思います。

─ 企業との調整がうまくいかなかったことはないですか?

滝口:今起こりかけてますね。安全対策上、ヘルメットの着用は絶対条件としていますが、ある企業の方から、ヘルメットを被らないかんとこへ連れて行くことは危険やということなんで、その活動はやめると言われました。
また、営業成績でやめていかれる企業もありますね。うちとしては、急にやめられても困らないようにと、1つの企業だけに頼らないようにしています。
あと、植樹の希望が多いですね。いま植樹をしたからといって、しっぱなしだからあとの管理が大変なんですね。植樹したいと言うてきますから、木を育てることも考えないと。

─ 企業と森づくりをすすめるうえで大事にしていることを教えてください。

滝口:企業の森を担当しているのは12名で、だいたい1人1個持ってもらって任せています。企業の森がうまくいくところがあったら、ほかも真似してもらったらいいんで。
うちは参加者5人に1人スタッフを付けています。それを通していかないとしんどいね。子どもでも同じで、鋸を振り回したりするんで。
「まちのきこり人育成講座」やレベルアップ講習会など、知識および技術の向上をだいじにしています。そうした講座に参加する若い人には、いま会員に入ってもらわなくても、あと10年後、20年後にその気になって入ってくれたらと、種を播いている感じやな。

お話を伺った滝口邦夫さん

お話を伺った滝口邦夫さん

─ 人材育成の種が花開いて、企業との森づくり活動が長く続くといいですね。
本日は貴重なお時間をいただき、どうもありがとうございました。