MENU

市民の森づくり

活動事例

case
10
case 10

乱伐された森林を再生へ。企業と共に、エコラの森で森林資源の循環を実現

─ 今回はTIMBERWORKの広報担当である高橋美樹さんにおうかがいします。

─ NPO法人しんりんと活動場所である「エコラの森」について教えてください。

高橋:NPO法人しんりんは、地域の森林資源を活用して森づくり、家づくり、環境教育をおこなうメンバーが集まって、2012年に活動を開始し、2013年にNPO法人として設立した団体です。宮城県大崎市鳴子温泉にある「エコラの森」を中心に、森林整備をおこなっています。

活動の拠点である「エコラの森」は、かつてリゾート開発が計画されていた場所で、計画が頓挫した後、負債を補うために乱伐され、放置された約260haの森林です。皆伐されたために植樹が必要な場所や、細い木が密集して間伐が必要な場所など、森林整備が必要なところばかりです。2012年、大崎市から森林経営計画が認定され、「しんりん」は林業事業体として計画的に植林、下刈り、間伐を進めています。
なお、エコラとは、星正晴さんの本『エコラ』に出てくる怪獣の名前で、人間が汚してしまった地球を再生してくれることから、再生をめざす森の名前として付けられたのです。

─ 「エコラの森」では企業と連携してどのような活動に取り組まれていますか?

高橋:「エコラの森」では、NPO法人しんりんの森づくりの理念に賛同した事業者と連携し、CSR活動を受け入れています。
一般社団法人セブン-イレブン記念財団の支援を受けて「宮城セブンの森」を設け、道沿いの斜面にはサクラ、水の多いところでは鳴子こけしの材料になるミズキを植えるなど、地域に愛される森づくりを進めています。また、メットライフ財団の支援を受けた「メットライフ財団の森」では、生物多様性の保全や持続可能な社会の実現に向けて針広混交林の育成に務めています。「宮城セブンの森」には、宮城県内のセブンイレブンのオーナーとその家族が多い時では100名程度、「メットライフ財団の森」にはネットライフ生命の社員が約40名ほど、年に2回、森づくり活動に参加しています。具体的には、地形、日当たり、土壌などの条件を考慮して選んだ苗木を植える植樹活動のほか、植樹した後も夏場は草刈りをしたり、つる切りと、それらによって壊れたシェルターを直したりしています。

近年、「こけしの森のプロジェクト」として、地元のこけし職人らと鳴子こけしの材料となるミズキの材料となるミズキの森づくりを共に進めています。

このほかに、横浜市に本部を置く進学塾・株式会社日能研の支援を受けた「私学の森」があり、子どもたちが林業を体験できる森となっています。日能研との関わりは、東北大震災の被災地支援から始まりました。被災地にペレットストーブを運び込むなどの大場の支援活動の姿が日能研代表の目に留まったことから交流が続いています。
このように、NPO法人しんりんでは、さまざまな企業のCSR活動を受け入れ、「エコラの森」の森づくり活動を進めています。

─ さまざまな企業との連携は、どのようなきっかけから始まったのですか?

高橋:NPO法人の理事長を務める大場(隆博さん)は、東北で山から住宅までをつなぐシステムをつくるという目標を掲げ、各地で講演したり、交流したりしてきました。そのビジョンに賛同してくださった企業の方やファンドの方との個人的なネットワークから、多くの企業との連携が生まれました。

─ 理事長さんのビジョンを実現するために、複数の事業者でグループを作り、森林資源を有効に活用する仕組みを整えたようですが、どのような仕組みなのでしょうか?

高橋:NPO法人しんりんを含むTIMBERWORKグループという関連グループの中で、森林資源のカスケード利用を実現できる仕組みができています。たとえば、生産の工程で生じるおが屑やかんな屑は、木質ペレット燃料として加工されますし、木材乾燥には生産過程で出る端材を燃やして、その煙と熱でいぶし上げるので、化石燃料に頼らず、薬剤を使わない木材を生産しています。

TIMBERWORKグループには、森づくりをおこなうNPO法人しんりん、製材・乾燥など建築用材を生産する株式会社KURIMOKU、家づくりをおこなう株式会社サスティナライフ森の家、バイオマスエネルギー事業をおこなう株式会社VESTA・CHP、モデルアパートの経営など不動産を扱う株式会社サスティナヴィレッジが含まれています。このため、森林を整備して木材を搬出し、建築材に加工して家をつくるところまで、グループ内で一環して実施することができます。たとえば、これから家を建てる施主の方が、木材を伐り出す「エコラの森」に来て、伐採・搬出される様子を見学し、林業の一端を体験するようなことにも取り組んでいます。
また、建築材として利用できない森林資源から薪や木質ペレット燃料を生産し、ボイラーや熱電供給システム(CHP)の導入もすすめ、バイオマスエネルギーで生活する木造建築物を賃貸アパートとして経営しています。地域内で森林資源を無駄なく利用して炭素循環を図るシステムは、持続可能な社会に向けた先駆事例となっています。

─ 「エコラの森」に隣接した「サスティナヴィレッジ」とは、どのような施設なのですか?

高橋:「サスティナヴィレッジ」には、地域材で建てた木造賃貸アパートがあり、そのエネルギーは森林バイオマスをエネルギー源とした小型ガス化熱電併給ユニットから供給されています。つまり、地域の森林資源を活かせば持続可能な暮らしが実現できることを示す実証的な施設です。

TIMBERWORKグループは、もともと関連する事業者として連携していたのですが、2023年夏頃からグループ化されたばかりです。現在は、グループが目ざす森林資源を循環して木に活用するシステムがモデル的に示されている段階ですが、今後はさらにこの仕組みが社会の中に展開していく計画です。

─ それにしても、ここ(サスティナヴィレッジ)は素晴らしい施設ですね。
あらためて泊まりに来てみたいです。
本日は、お時間をいただき、ありがとうございました。