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森林吸収と排出量取引、カーボン・オフセットとの関係

野畑 直城(林野庁 研究・保全課 森林吸収源情報管理室 課長補佐)

京都議定書の目標達成に向けた3 つのスキーム

よく「森林吸収量はカーボン・オフセットには使えるのか」「排出量取引には森林吸収源は入っていないのか」といった質問をいただきます。これらは、本質のところの理屈をご理解いただければ、難しいことではありません。

京都議定書の目標達成には、国内対策としての「①排出削減(0.6%)」「②森林吸収源(3.8%)」、①と②の国内対策を最大限行った上でもなお不足する分を補足的に用いる「③京都メカニズム(1.6%)」があります。よく知られているのは基準年総排出量比6%削減という国際約束ですが、2007 年度の速報値では排出量が逆に8.7%増えているということから、全体では14.7%の削減が必要となっております。本来ならば「①排出削減」は0.6%でよかったのに増えた分を合わせて9.3%下げなければならないわけです。そして、我が国の6%の目標達成に向けては、そのうち3.8%(1,300 万炭素トン)を上限に森林吸収源を使っても良いということが国際的に認められています。

まず、京都議定書の目標達成のためには、「①排出削減」「②森林吸収源」「③京都メカニズム」の3つのスキームがあることをご理解ください。そして増えすぎた「①排出削減」の目標達成に向けた一手段として「排出量取引(国内統合市場)」が10 月から始まっております。


京都議定書の排出削減対策としての「排出量取引(国内統合市場)」

「排出量取引(国内統合市場)」には、「①試行排出量取引スキーム」「②国内クレジット制度」という大きな枠組みがあるのが特徴です。

この制度を政府全体で検討する前までは、「排出量取引」というと、キャップ&トレードという性質を有するもの、つまりCO2 を排出する企業に対して政府がキャップ(割当量)をかぶせることでCO2 の総排出量を下げることを促し、その割当に見合う排出削減量は当然達成義務になると考えられていたため、産業界は猛反発していました。キャップを割り当てるという行為がエネルギー統制にもつながるのではないかという声が根強く、なかなか制度が実現しませんでした。

このような声も踏まえた上で、政府全体で検討した結果、本制度(国内統合市場)は、参加や目標設定が自主的なものとなっています。特に、目標設定に当たっては、排出削減の総量目標を立てても良いですし、原単位(活動量当たり)でも良い仕組みになっています。CO2 を大量に排出する産業は、京都議定書の目標達成のための「①排出削減」の取組として、京都議定書目標達成計画において自主行動計画を業界ごとにたてていました。本制度では、業界がたてる自主行動計画に整合を図る形で個別の企業が参加する形になります。企業が判断するに当たり様々な仕組みがあることから、これまで難色を示していた主要産業にも参加を促し、ようやく国内版の「排出量取引制度」としてオールジャパンの取組が動き出しました。

また、本制度のもうひとつの特徴「②国内クレジット制度」は、京都メカニズムのCDM(③京都クレジット) を模した制度で、日本独自のものです。本来、大企業は「①試行排出量取引スキーム」の中で、各々の目標の達成具合によって大企業同士が行う排出枠・クレジットの取引による目標達成が原則ですが、それを補完する形で「②国内クレジット制度」ができました。これは自主行動計画を構成しない中小企業や農林家といった小規模な主体も関連しています。大企業がこれらの中小企業等に資金援助や技術協力をすることで、減ったCO2 削減量を排出枠・クレジットとして生み出し、大企業はそれを自分の排出枠・クレジットの不足分として使うことができるというものです。



「カーボン・オフセット」の位置づけ

ここまでは、京都議定書の目標達成に向けた枠組みの中での話です。その一方で、最近話題になっている、「カーボン・オフセット」は、制度として全く別なものであるということをご理解ください。

カーボン・オフセットは、京都議定書目標達成に向けた排出削減対策を行う事業者の削減活動とは別に、企業・団体、個人などあらゆる主体において、それぞれの活動により出してしまうCO2 を出さなかったことにするという性質の取組です。カーボン・オフセットが有名になったのは2006 年のドイツでのサッカー・ワールドカップです。このイベントのために世界各国からドイツに観客がやってきて環境負荷をかけるため、本来ならば発生しないCO2 が余計に発生してしまうことになります。そこでサッカー協会は、ワールドカップを開催することで発生するCO2 を相殺するため、WWF が支援するゴールドスタンダードのCDM クレジットを買うことによりオフセットしました。

カーボン・オフセットというのを一般化すれば、自分が出すCO2 の量をまず把握し、自助努力による排出削減活動により出来る限りを減らし、それができなければ他の団体を支援することで埋め合わせるというものです。イメージとしては、「10 出しているものを出さなかったことにするために、まずは自分で7 まで努力して削減できたけれども、残りの3 がどうしても自助努力では削減できないということに対して、資金を提供して他の団体の活動を支援することで、残った3 の排出分の埋め合わせをして、10 削減したことにする」というものです。

以上をまとめると、京都議定書目標達成のために導入された「排出量取引(国内統合市場)」は、我が国の国際約束を遵守(コンプライアンス)するための手段とした取り組みです。これに対してカーボン・オフセットは、特に地域にとらわれず、全地球が対象となるものです。地球全体のCO2 量をできるだけ少なくし、環境負荷をかけないようにしようという自主的な任意の取り組みであり、京都議定書の国際約束に向けた我が国のコンプライアンス(法令遵守)とは全く異なるものなのです。



「オフセット・クレジット」では森林吸収クレジットの創出が可能

繰り返しになりますが、京都議定書目標達成のためには、「①排出源対策」をフルに達成しなければなりません。また、「②森林吸収源」の3.8%は、その算定・検証体制の専門性や特殊性などから、国が一元的にその全量を確保することが京都議定書目標達成計画で確定しています。これらを最大限行ってもなお足りない部分は「③京都メカニズム」で補完することになります。この3 つのスキーム全てがクリアできてはじめて、6%削減約束が達成できるということなのです。

この原則に基づけば、排出量取引は、図の棒グラフ中「①排出削減」の中での枠組みですから「②森林吸収源」の森林吸収量をこの制度の中でクレジット化し、「①排出削減」にカウントすることはできません。仮に、排出量取引に森林吸収量を位置づけた場合、「①排出削減」分と「②森林吸収源」分が相殺となって、トータルの6%削減目標を達成できないということです。ただし、注意していただきたいのは、林野庁が進める森林・林業施策において、木質バイオマス利用による排出削減量から生まれるクレジットはカウントすることができます。これは化石エネルギー代替として「①排出削減」の中での取組になるから排出量取引の対象となるのです。

一方、カーボン・オフセットは京都議定書目標達成の枠外になりますので、このような「①排出削減」と「②森林吸収源」の相殺の問題は起こりません。このため、カーボン・オフセットでは、森林吸収活動についても対象となりますし、森林吸収を対象にした「オフセット・クレジット(森林吸収VER)」を創出することができます。 現在、環境省と林野庁が連携して、先ほど講演された小林先生が座長になられて森林吸収を対象にした「森林カーボン・オフセット制度」についての検討(森林吸収ワーキンググループ)を行っているところです。このため、国内の森林整備による森林吸収量によって創出されるオフセット・クレジット(森林吸収VER)は、京都議定書の目標遵守(コンプライアンス)のために活用することはできません。企業等がCSR 目的で行うカーボン・オフセットに活用することに限られます。企業が社会貢献として出す資金が山元に還流し、国内の森林整備が進むことで、間接的には森林吸収源3.8%確保が進められることが期待されます。森林吸収ワーキンググループにおいて、政府の施策を側面から支援するJ-VER 制度の一つとして議論を進めているところです。



(質疑応答)

環境省により検討が進められている「オフセット・クレジット(J-VER)」の森林吸収クレジットに関する発表内容(質疑を含む)は、本研修開催時点で公示されていた情報に基づく内容です。その後の検討を経た公式的な内容については、下記サイトに公表されています。環境省「カーボン・オフセットに用いられるVER(Verifi edEmission Reduction)の認証基準に関する検討会の開催状況・結果について」

http://www.env.go.jp/earth/ondanka/mechanism/carbon_offset/conf_ver.html


 補助金を入れて整備した森林はどのような扱いになりますか?

 森林吸収ワーキンググループのこれまでの検討の中では、確かに補助金を入れた森林整備の扱いをどうするかという議論がありました。現在、森林吸収源対策の一環として間伐の推進を行っていますが、これは、林野公共事業として森林の多様な公益的機能を高めるための間伐を行うことを目的に補助金による事業を進めているものです。ただし、この補助金の中で温暖化対策部分を特定することは困難であることなどから、森林吸収VER においては、補助金を受けていることをもってクレジット対象から排除する、又はクレジット量を割り引くことはしないこととして整理される模様です。(野畑) 



 オフセット・クレジットを目的とした森林整備であっても、その整備した森林は森林吸収源3.8%分のカウント対象森林となるのですか。そうであれば、京都クレジット(RMU)としてカウントする森林吸収量を、オフセット・クレジット化するのは、森林吸収量の価値の二重評価にはならないのですか?

 重要な点です。オフセット・クレジット制度は、京都議定書目標達成計画の枠組みとは別に、企業がCSR 目的に自社のCO2 排出量等を自主的に埋め合わせるためのクレジットを発行するという、我が国のコンプライアンスとは全く異なる任意の制度です。このため、オフセット・クレジットを目的に整備を行った森林であっても、京都議定書上の森林吸収量のカウント対象森林(FM 林)になり得ます。「森林吸収カーボン・オフセット制度」が、直接ではなく間接的に、京都議定書の目標達成に向けた追加的な間伐を側面から支援するということです。また、そこで発生する森林吸収量のクレジットについても、オフセット・クレジット(森林吸収VER)である場合は、企業のCSR目的のための活用に限られる一方で、京都議定書における森林吸収量(RMU)は、企業等の排出削減分にカウントされるものではなく、森林吸収源3.8%の達成の一部にカウントされるものですから、同一の制度の中での二重評価にはならないものです。(野畑)



 創出したクレジットの使い道は?

 これから、いろんな形が出てくると思います。小林先生の話の中にあった、最終的にどう使うかが明確になっているプログラムでは、認定機関が一定の基準によって認定するということでした。そこは独自性があって良いのだろうと思います。そこはアイデア勝負ということになると思います。(宮林)



 CSR 予算が打ち切られて、企業の森づくりが誘致以前の状態になったらどうしましょう。

 企業との関係では、やはり持続性が問題になります。多くは3 年~ 5 年の契約になっていると思いますが、やはり森林は長期的な視点が基本となるので、本来ならば100年の計といいますか、「最後まで面倒をみてください」という契約に持っていければ最高です。それはともかく、最低でも計画制度の10 年くらいは持続していただきたいと思います。また受け皿も所有者等が細かく分かれていますので、これも団地化の契約を結びながらある程度の面積にしないと企業としてのメリットがありません。森づくりコミッションが、そういったことを調整する役割を果たせればいいと思います。(宮林)



 吸収量を算定する期間は?

 小林先生のお話しでは、これからの議論だということでした。基準を全国で一定化することは必要なのかも知れません。今回ご説明した評価ツールのように、森づくりコミッションの中ではある程度基準化しておりますので、これをうまく使っていただきながら、信頼性も確保できればよいと思います。(宮林)



 企業によって契約期間の幅がありますが、それによる評価の差は?

 そこはありますね。評価を1 年ごとにした場合、その企業が5 年契約したのと3 年契約したのでは、確かにだいぶ違うはずです。これをどう平準化するかは課題になると思います。やはり基準は1 年ずつということになるかもしれませんが、議論のなかで統一していく必要があるでしょう。(宮林)



 CO2 吸収量算定での成長量は地域によってバラツキがあります。それぞれの比較により収穫表や算出方法の是正を検討する必要はないのですか?

 各県で収穫予測表の精度にバラツキがあるのは承知しております。森林吸収VER の場合、各県が持っている収穫予測表などの数字を使って森林吸収量を算定する、そのために各県で行われたプロジェクトは当該県における調査を行い、地域の地位級に見合う成長量から算出した数値を申請する、というのがいまの議論の流れです。もっとも、成長量をどのように出したのかの根拠が明確であり、それが正確であることが検証されるのであれば、クレジットの対象になるということだと思います。その精度を全国統一的に突き詰めるよりは、各県の地位級に応じた収穫表に基づいて計算するということで整合性をとる方向で進んでいったほうが良いのではないかと思います。(野畑) 疑問に思うことがあれば、調査をして修正することは必要でしょうが、あまり細かくしていくと色々な意味で大変になってしまいます。既存のデータはある程度信用していくという方向を貫いたほうがいいのではないかと思います。(宮林)



 国内のCDM においては、今後も森林吸収が取り扱われることはないという認識でよいですか?

 「国内CDM」 という言葉が一人歩きしていますが、これは、政府全体で「排出量取引(国内統合市場)」を制度化する前に、経済産業省が独自に「大企業が中小企業等に資金・技術支援をして排出削減により創出されるクレジット」のことを表現していたものであり、「排出量取引(国内統合市場)」の「②国内クレジット制度」のことです。ですからこれは、先ほどの「①排出削減」と「②森林吸収源」の相殺の問題から、森林吸収源は対象にはなり得ません。(野畑)



 様々なところでそれぞれの削減計画が進められていて、それがどこに属しているのかが分かりにくいということがあります。県内の森林を県外の自治体の協力を得て整備をするという話があって、それは県の削減目標にもカウントされるし、県外の自治体でもカウントされています。ダブルカウントとなっていますが、任意の活動ならば特に問題はないということですか?

 一般的には、カーボン・オフセットの場合、任意の取り組みであり、ローカルルールとして決めたことであれば、いろんな地域独自のルールややり方があっても良いと思いますし、その地域内であれば有効です。例えてみれば、その地域でのみ通用する「地域通貨」です。これに対し、国が確保する森林吸収量の京都クレジット(RMU)を例えれば、国際的にも認められた「日本銀行券」です。他の地域で、別の地域の「地域通貨」を使うことはできないし、その地域の「地域通貨」は別の地域で「日本銀行券」の代わりにはならないという理屈と同じです。地域で合意により決めたルールに基づいたものを評価する企業等が、自社のCSR 目的に経営判断として利用するのであれば多様なメニューがあっても良いということです。ただし、ダブルカウントのように自らが都合の良いように解釈して運用することが起こりうるのであれば好ましくないと思います。要は、資金を受ける側としての説明責任の問題です。(野畑)



 下刈りを認証対象にしている都道府県がありますが、これも成長量で産出するということですか?

 国が行っている3.8%達成のための森林吸収量の算定は、それぞれの森林の林齢での成長量に基づいています。ただし、カーボン・オフセットの場合、一番問題になるのは「追加性」です。カーボン・オフセットでは地球上に増加したCO2 を実質削減しないといけないわけです。追加性のない、つまり、これまでと同じ当たり前のこととして行っていたことがクレジットとして認めるということは、事業者が今までどおりのことをやるだけでよいということを認めることになります。オフセット・クレジット(森林吸収VER)を申請するに当たり、追加的な措置が本当に講じられているのか、森林吸収カーボン・オフセットという制度がなかったらどうしてもプロジェクトができないというものを認定しようというのが本制度の趣旨であり、これはCDM からきている考え方と同じです。CDM も途上国の排出削減を先進国が行い、削減されたものは先進国のクレジットとして使っても良いということですから、追加性は非常に厳密に見られます。それとカーボン・オフセットは同じ考え方に基づいています。そのような考えの中で、下刈りは当然やらなければならない整備だと思います。現在、ワーキンググループで議論になっているのは、間伐を行うことによる森林吸収量の扱いです。補助金という制度がありながら、なぜ間伐がすすまないのか。森林吸収カーボン・オフセット制度があって、政府が進める追加的な森林整備を後押しできるのならば、それは追加性として認めようということで、ポジティブリストをつくろうとしています。ですから下刈りなどの保育とか天然生林とかは今のところは検討に挙がっていません。ただ、ワーキンググループでも新規植林や再植林という、森林ではなかったところに森林を造成しようという動きは評価するべきだという方向で動いていると聞いています(野畑)



 排出量取引の中では、森林吸収ではなく、木質バイオマスに特化している動きが見られますが、林野庁は今後もこのような考えなのですか?

 「排出量取引(国内統合市場)」は京都議定書目標達成に向けた一手段の取組です。排出量取引の中において、木質バイオマス利用による化石燃料代替は、「①排出削減」のための活動です。「②森林吸収源」の取組でありません。このため、排出量取引(国内クレジット)の中で、林野庁が木質バイオマスに偏向しているのではなく、林野庁関連の施策としては、木質バイオマス利用によるクレジットのみが対象となっているものです。(野畑)

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