森林の機能評価と企業の森林づくり活動の定量的評価
興梠 克久(九州大学大学院 農学研究院 助教)
昨年度、林野庁補助事業『企業等の森林づくり活動に対する評価手法の開発』で開発した、環境貢献度の定量的評価手法(二酸化炭素吸収、表面侵食防止、水質浄化、水資源貯留、洪水緩和の5機能)の概要・ポイントの説明と、実際の評価ツール(Excel)の操作方法についてデモンストレーションを行いました。
● 興梠 克久(こうろき かつひさ)
九州大学大学院 農学研究院 助教。
1968 年宮崎県生まれ。1997 年に九州大学で学位取得。1997 ~ 2005 年に財団法人林政総合調査
研究所勤務、2005年より現職。林業経済学専攻。「やまぐち森林づくり県民税関連事業評価システ
ム検討委員会」委員(平成19 年度、山口県)、「企業等の森林づくり活動に対する評価手法の開発」
委員(平成19 年度、全林協)等。
定量的評価手法開発のスタンス
実際の評価手法にいく前に、この報告書『企業等の森林づくり活動に対する評価手法の開発』のスタンスについて、まずはその入り口として4 点ほど留意点をお話ししたいと思います。
興梠 克久さん
●貨幣価値評価を提示
まずは、そもそも指数評価か貨幣価値評価かということですが、今回は貨幣価値評価としています。
森林計画制度上では、いわゆる多面的機能のうち、どの機能を優先させた森林整備を行うかを判断するために、諸機能間の比較が必要となりますが、それは指数評価で十分です。しかし今回は、あえて貨幣価値評価にしました。それはなぜかというと、森林環境の利用・保全の経済的合理性や社会全体としての大切さを、誰もが自らの経験のなかで解釈するには、貨幣価値表が適切だろうと考えたからです。実際には林野公共事業の「事前評価マニュアル」も費用対効果分析が利用されていますし、有限責任中間法人more Trees のように、カーボン・オフセット市場での利用もされています。
●評価手法は代替法
貨幣価値評価の手法には、いろんなものがあります。 傾向としては、森林レクリエーション効果の評価には旅行費用法(TCM)が多いとか、生物多様性関連の森林環境効果の評価には仮想評価法(CVM)とかコンジョイント分析(CA)が多く、水土保全や大気、防災関係の森林環境効果の評価には圧倒的に代替法(RCM)が使われています。これまでの森林の環境機能の評価事例を見ていても、ほとんどが代替法であり、72 年の林野庁による約13 兆円という評価からはじまり、91 年は39 兆円、2001 年の日本学術会議の評価では74 兆円ということになっています。 これらを踏まえて、今回の調査でも評価手法は代替法にしています。
●評価対象とする機能
今回の報告書で評価対象とする機能は、水土保全関係と大気保全関係に絞っています。国有林の「法人の森林制度」では、1 年間でどれだけ環境に貢献しているかを企業の求めに応じて国有林が提示することになっていますが、その時の評価対象が「表面侵食防止機能」「洪水緩和機能」「水資源貯留機能」「水質浄化機能」「二酸化炭素吸収機能」の5 つであり、これらの機能は、先ほどの日本学術会議でも主要な評価対象機能になっています。
森林の多面的機能には階層性があり、1 階部分には、いかなる林地利用を考えても競合しない共通的要素としての土壌保全・大気保全機能が基礎機能としてあります。そして2 階部分には、それらが確保された上での高度利用形態として、生産的利用、保護的利用、レクリエーション利用といったものが利用競合しています。こういった考え方からしても、1 階部分の機能は非常に大事だと言うことになります。
●評価レベル
評価レベルとして、森林の公益的機能の絶対量を測るのか、手を入れたときの変化量を測るのか、それとも手を入れたことによる何年か、あるいは何十年かの効果を測定するのかということですが、さしあたり昨年の報告書では、最も基本的な、1 年間の機能絶対量を知ろうということにしています。これには、企業側の自己診断に使ってもらえるようにという意図もあります。
森林機能の評価には軸が2 つあります。1 つめの軸は、機能の絶対量か、手を加えたことによる変化を図るのか、ということです。日本学術会議は絶対量となっています。2 つめの軸は、評価対象期間を1 年ごとの効果を明らかにするのか、それとも手入れによる効果が持続する期間全てなのか、ということです。日本学術会議は1 年ごとの効果、林野庁の公共事業の事前評価マニュアルは持続する期間をとっています。
ステップとして考えると、ステップ1 は、森づくり活動に関わっている森林はそもそもどれくらいの環境貢献効果を持っているのかを知ろうということです。それができたらステップ2 として、実際に手を加えたことによってどう変化しているのかを知ろうということになります。仮想評価法(CVM)は、こういう観点での評価をすることになります。今回の報告書でも、参考値として一応出しています。さらにはステップ3 として、林野公共事業評価などでは50 年とか100 年といった期間の効果を全て測定して、手入れをした費用と比べての費用対効果を知ろう、要するに手入れの経済的合理性を測ろうということになります。これは近年各県で導入されている森林環境税事業の評価にも使われ始めており、山口県では林野庁方式を見直しながら評価方法を検討されています。
例えば水資源貯留量の評価をする場合、未整備森林でも裸地よりは貯留量は多いのですが、森林に手を入れて下層植生が豊かな森林にしていくと、徐々にその効果が上がり、ある時点でその効果が持続されるようになります。ステップ1 は、1 年間の貯留量を、裸地の場合と森林の場合の差を測ろうということです。ステップ2 では、1 年間での未整備の森林と整備済みの森林の差を、ステップ3では、未整備の森林と整備済みの森林の差を全て測ろうということになります。今回の報告書はステップ1としてやっているということです。
評価式の概要
実際の評価式は図の通りです。
表面侵食防止機能は、裸地の年間土砂流出量と整備済みの差に森林面積をかけて砂防ダムの建設コストをかけるということです。
洪水緩和機能のなかの100 年確率雨量強度というのは、2000 年の林野庁の評価の時に林野庁が計算しており、都道府県ごとに出ています。
水資源貯留機能でも、森林地域の平均降水量と森林からの年間蒸発散量は都道府県ごとに数値が違います。
水質浄化機能は、水資源貯留量に水道水の価格や、東京ドームのシステムを参考にした雨水の浄化施設建設コスト維持費の単価をかけています。
二酸化炭素吸収機能は、森林が吸収したCO2 量に、山口県が森林環境税事業評価で産出している取引単価2600円を使用しています。学術会議の単価は1万2000 円と高いのですが、同じものならば安い方を採用するのが代替法の鉄則です。
評価ツールの使い方
三石麗((社)全国林業改良普及協会制作事業部)
エクセルとフラッシュの2つのツールを開発
興梠先生からご説明がありました定量的評価指標を、ツールとしてどういう形で使っているかを、ご説明いたします。
2つのツールをつくっており、1つはエクセルファイルのもので、森づくりコミッションにお配りして、そこで使っていただこうとしているものです。もうひとつは森づくりコミッションポータルサイト「森ナビ」に掲出しており、誰でもお使いいただけるフラッシュのものをつくっています。こちらは全国平均の値を使っていますので、地域の実情に則さない場合がありますが、まずは試していただくということで、エクセル版とフラッシュ版の棲み分けを図っています。
評価ツール(エクセル版)の使い方
●データ入力・算出
①まずはマクロでプログラムをしているので、セキュリティーが出ます。マクロを有効にしないと動きません。都道府県の環境によってはマクロが働かないようにしているところもあるそうですが、そういうパソコンだと正常に働かないこともあります。通常のパソコンならば問題なく使えます。
②最初に注意事項が立ち上がるようになっています。右側には変更履歴を書く欄を設けてあり、間違えたらここで確かめられるようにしています。
③回答のシートに都道府県、樹種、林齢、面積を入力します。組織名は任意で入れてください。
④回答したあとに「計算」を押すと、結果のシートになり、自動的に二酸化炭素、表面侵食防止、水質浄化、水資源貯留、洪水緩和の物量、指標に換算した値、評価額が出ます。結果シートの下には、どんなデータを入力したかが分かるようになっています。
⑤「←もどる」を押して回答シートに戻り、「これまでの全ての値をクリア」を押すと、最初から計算することが出来ます。また、いくつかの値を合算して産出する場合は「全ての森林を合算して算出」を押すと、そのように表示されます。
●データソース
ここまでは回答と結果のシートですが、table のシートは、計算式に用いた数式のデータソースとなっています。簡単に書き換えられてしまうとツールとしての正確性に欠けてしまうので、編集は緑色の部分だけ出来るようにしてあり、将来数値が変わったら変更することができます。
また、樹種別の1ha 当たりの森林蓄積は全国平均値の値が入っています。ここのところを各都道府県の値に変えれば、その地域の実情にそった計算式となります。また、樹術角容積密度、バイオマス拡大係数、地上部・地下部比率の数値は2007 年5 月の『日本国温室効果ガスインベントリ』の数値を使っていますが、2008 年5 月のものも数値は変わっていません。
●評価ツール(フラッシュ版)の使い方
フラッシュ版は「森ナビ」のトップページから簡単に見つけられますので、ぜひお試ししていただければと思います。環境貢献度、社会貢献度、地域貢献度の3 つの要素を使って定量的評価と定性的評価をするもので、定量的評価はエクセル版の簡易版としてつくられています。
これもひとつひとつチェックしてもらうのですが、フラッシュ版はいろんな年齢層の方や森のことを知らない方にも使っていただけるように、かなり易しい言葉で簡単につくっています。
フラッシュ版には都道府県の欄がありません。そのことから分かるように、使用している数値は全国平均値です。使い方はエクセル版と同様で、簡単に結果が出て、印刷もできるようになっています。
また、定性的評価では、自己評価チェックツールをしてみて、「これをやっていないのであれば、こういったことが考えられるね」と言うようなことを考えていただけるようなものにしています。社会貢献に関しては定量的な評価がありませんので、定性的なチェックツールだけになります。
エクセル版入力画面
エクセル版入力画面
フラッシュ版入力画面(森ナビ内:http://www.morinavi.com/check/index.php)


