長野県「森林の里親促進事業」(県・出先事務所連携型)
長野県「森林の里親促進事業」(県・出先事務所連携型)
三石 和久(長野県林務部林業振興課経営普及係 林業専門技術員)
県が里親(企業)と里子(地域)を仲介
長野県が仲介役となって企業と地域を結びつける「森林の里親促進事業」は平成15年にスタートしています。その背景には、CSRという概念が重視されるようになってきていたこと、長野県には手入れ不足の森林が25万haあるということ、農山村の過疎化や高齢化、後継者不足、行政の財源不足等が起きていること、そのなかで多様な手法によって森林整備の促進を図っていく必要があったこと等が挙げられます。事業の目的として、企業の協力によって森林整備を推進する、企業(社員、家族、顧客)と地域のみなさんとで交流してもらい山村の活性化を図る、という2本の柱を立てています。
この事業の特徴は、県が責任を持って企業と地域の仲介役を担うこと、企業や地域の要望を聞いてオーダーメイドの活動をつくりあげていくこと、契約後の活動も県がフォローアップしていくことがあります。森林のオーナーや分収林といった地上権の設定は想定していません。
事業推進の流れとしては、まずは里子と里親を探さなければなりません。里子となる候補地は、森林整備に意欲的な地域の中から選定します。次に里親になる企業を掘り起こすのですが、それは社会貢献活動に熱心な企業から見つけます。その上で、事業説明として里親に里子を紹介し、お互いに「これでやろう」ということになったら里親契約の締結をし、いよいよ具体的な事業を実施する、という流れになります。

企業の掘り起こしや営業のコツ
これまで行ってきた企業の掘り起こしや営業のなかで蓄積してきたコツがありますので、ご紹介したいと思います。
●企業の掘り起こし
これまで里親契約を締結してきた企業には、あらかじめリストアップしていた社会貢献に熱心な企業、市町村と関係のある企業(例えば工場がある、社長の出身地)、知事自らの営業活動で里親候補になっていただいた企業と、大きく分けて3タイプがあります。なかでも、社会貢献に熱心な企業のリストアップは常日頃から行っておかないと、なかなか見つかるものではありません。
そのリストアップには、ホームページや雑誌等を手がかりにして探す、あるいは経団連の1%倶楽部の名簿を入手するといった方法があります。多くのCO2を排出している企業、水に関連する企業、アウトドアに関連する企業といった切り口でもリストアップすることができます。また、イベントを活用するのもひとつの手段です。ちょうどいま「エコプロダクツ2007」が開催されていますが、昨日は出展企業を約40社まわって名刺交換や制度の紹介をさせていただきました。そうやって企業をまわっている間に、企業の担当者から他の企業を紹介してもらうということもあります。
●企業への営業手順
企業の掘り起こしが済んだら、次は営業です。
最初はよく分からなかったので、とにかくダイレクトメールを企業あてに送っていました。そのあとで電話をするのですが、大きな企業だとダイレクトメールがどこに行っているのか分からなくて説明が二度手間になるということがよくありました。そこでできた手順が、①まずリストアップされた企業に電話をしてCSRや環境の部署と担当者を特定、②その担当者に電話で資料を送ることを伝える(細かな説明は禁物。その場で断られてしまうことがある)、③資料を送付、④企業内で1〜2週間検討、⑤電話をして企業側の判断を確認し、少しでも興味が有るようなら説明に行くアポイントを取る、というものです。
●事業説明から契約調印へのステップ
アポイントが取れたら、企業に出向いて説明をします。まずは事業の目的、仕組み、特徴、候補地を提示し、「森林の果たす役割がどれだけみなさんの生活に関わるのか」といった森林の重要性、里親事業を行った場合の企業のメリット、支援金の用途や活動の流れや事例を説明します。これがだいたい、1時間半〜2時間かかります。これがステップ1ですが、この段階で「できない」という企業と「もう少し検討したい」という企業がでてきます。
「もう少し検討したい」ということであれば、ステップ2として里子の候補地の選定に入ります。その段階では、候補地を示すとともに企業側の要望を聞き、交通アクセス、「木を植えたい」といった活動内容、宿泊施設や会議室等受入れ体制など多様な要望に合致した地域を再選定して提示しています。これがハンドメイド的・オーダーメイド的なつくり方、ということです。多くの場合、企業側の要望に合致した地域が選定できた場合は、その後の活動が上手くいっています。
この段階まで来たら、里子の受け入れ態勢も整えなければなりません。そこで候補地にも「こういう事業をやりたい」ということを打診しておきます。これがステップ3です。
そこまで進んではじめて、現地でのお見合いの場を設定します。これがステップ4です。それから何度か打ち合わせとか現地の確認を経て、里親契約の調印ということになります。
このステップ1から4まで、早くて半年、長いと1年くらいかります。
●事業説明の詳細
企業に対する事業説明では、まずは事業の流れとして、企業から地域に支援金が入った場合は補助金とセットになって森林整備が行われること、その整備とは間伐でプロに委託して行うこと、社員や社員の家族が地域の皆さんと交流することもできること等を説明します。里子が地方公共団体の場合、支援金は損金参入できること、また環境報告書やCSRレポートの作成にも役立つ、という話もします。
次に、荒廃した森林を整備して森林の多面的機能が回復させることの重要性と、それに対して協力して欲しいという話をします。そして、企業のメリットとして、①森林整備や地域活性化といった社会貢献フィールドとして活用できる、②企業のイメージアップにつながる、③社員や家族の福利厚生の場になる、④CO2吸収源、水源の森林企業の思いに見合った森林づくりができる、という話をします。
一番重要なのは、具体的な活動内容をイメージしてもらって、企業担当者のやる気を喚起することです。企業のみなさんは森林や環境に興味は持っているのですが、「なにができるのか」「どうしたらいいのか」ということをモヤモヤと思っています。そこを具体的に話してあげることによって、「自分たちにもこういう活動ならばできる」「これくらいの予算ならとれる」とイメージしてもらうことが、一歩進めるためのポイントだと思います。そのために、森林整備に係る経費を提示したり、里親契約をして行われている活動の事例を紹介することで、担当者になるべく具体的にイメージしてもらっています。
里親事業の実績と課題
現在までは26の契約が成立しています。支援金額はトータルで5775万円、 それによる森林整備面積は380haとなっています。全県から見ればまだ、1%に満たない森林でしかありません。しかし整備された森林面積よりも、地域でいろんな交流が起きたことによって活性化された効果は非常に大きいと思いますし、里子(地域)からも評価していただいています。
この事業の課題として、ひとつには地域への里親事業の普及啓発があります。地域からは「都会の人が来て何がどうなるの」という心配の声がありますので、その可能性やメリットを波及させて受け入れ態勢を整えなければならないと考えています。
アイシン精機(株)他4社と根羽村との活動
(株)ジャパンエナジーと原村との活動
また企業の掘り起こしもまだまだ必要です。特に県内の企業が少ないのが悩みの種でして、やはり地元の企業がしっかり入ってくれて盛り上がるというのも、この事業を大きく推進させるための課題だと思います。そして、この事業の活用はもっと広げられるのではないかと考えています。観光や農業、森林セラピーといったソフト的な仕組みをさらに広げていく必要があると考えています。


