森づくりインタビュー - 河合 雅雄さん

「森づくり」について各界の著名な方に語っていただきました。

世界的なサル学の権威であるとともに、童話作家としても知られる河合雅雄さん。現在は、丹波の森公苑名誉公苑長、兵庫県立人と自然の博物館名誉館長、兵庫県森林動物研究センター名誉所長等の立場から、里山の復興と自然教育に力を注いでいる。今回はそんな河合さんに、森林や自然への想いを語っていただきました。

「日本人には森林そのものを楽しむ文化がない
遊んでいる里山を「遊び場」としての里山にしよう」

河合 雅雄さん

京都大学名誉教授 丹波の森公苑名誉公苑長

1924年、兵庫県篠山町生まれ。京都大学理学部卒業。京都大学霊長類研究所教授、同所長、(財)日本モンキーセンター所長を歴任。京都大学名誉教授。現在は、兵庫県立人と自然の博物館名誉館長、丹波の森公苑名誉公苑長、兵庫県森林動物研究センター名誉所長として活躍されている。著書には『人間の由来』『少年動物誌』『森に還ろう』等多数。『河合雅雄著作集』全13巻もある。

「子供は群れる」のが基本だが…

私は兵庫県の丹波篠山で生まれ育ちました。私が子供の頃は、ドブにはタヌキが、家の裏にあった大きなエノキにはムササビが、篠山城跡の堀の竹藪にはキツネが何匹も棲んでいました。虫も鳥も魚もたくさんいましたね。現在は野生動物との共存が大きなテーマになっていますが、昔は、ちょっとした町だったら、人と動物は一緒に暮らしているのが当たり前でした。

私は小学校3年生のときに小児結核に罹ってしまい、学校にはあまり行けなかったのですが、元気な時はみんなと一緒に外で遊んでいましたから、野原とか川とか山で遊んだ経験だけは豊富です。特に自然好きの私は、耽溺するくらい自然と親しんでいましたね。

サルは単独生活をするものもいますけれど、群れで暮らすのが基本ですから、サルなりの社会的マナーやルールを身につけないと生きていけません。そしてそれは遊びの中で覚えていきます。母親から離れて遊べるようになった子ザルは、自然に異年齢集団をつくって、みんなで遊ぶようになります。そのなかでレスリングをしたり追いかけっこをしたりして、疲れたら母親のところに帰っていく。そうしたなかで、いろんな社会性が育まれていくのです。

人間も原理的には同じです。当時の子供たちは、必ず群れて遊んでいました。一番楽しかったのは、畑の作物をかすめ盗って食べることですね(笑)。たいして美味しくはないけれど、怖いおじさんの目を盗んで採るスリルですよ。見つかったら「このガキ、警察に突き出すぞ」って怒られましたけれど、今思うと、その目は優しかったように思います。そうやって昔は、遊びの中でルールを学ぶとともに、地域全体で子供を育てていました。

しかし現在では、地域社会がほとんど崩壊してしまっていますし、子供たちもテレビゲームなどに夢中になり、あまり群れて遊ばなくなってしまっています。子供を育てるには、非常に難しい時代になってしまいましたね。

里山も時代に合わせて変わるべき

interview-kawai2

人間にとって森林とはなにかというと、大きく「生産資源」「環境資源」「文化資源」の3つに分けられると思います。しかし日本では森林を文化資源と捉える視点が、欧米と比べてほとんどありません。平たく言えば、欧米では日常的に森林そのものを楽しんでいますが、日本にはそういう文化がないのです。盆栽や活け花、庭づくり、または俳句や短歌などの文学の世界を見ても、自然から美的なものを抽出して再造形する能力は、日本人はおそらく世界一でしょう。でも、楽しんでいるのは庭づくりや俳句を詠むことであって、自然そのものに没頭してきたわけではありません。

里山は簡単に言えば、人間に役立つように維持管理されている低山帯のことです。そして人間に役立つという部分は、その時代ごとに変化していきます。例えば、森林に二酸化炭素の吸収源という役割があるなんてことは、昔は考えもしませんでしたし必要もありませんでしたが、現在では環境資源としての大きな役割となっています。そのように、里山の意義も時代に合わせて再形成しなければならないと思います。

いまの子供たちには、そして大人にも遊び場が必要です。一方で、全国の里山は管理・利用されずに遊んでいます。その里山を「遊び場」として管理することで、里山そのものを楽しもうという視点が必要なのではないでしょうか。そうすることによって、森林を文化資源として見る感覚も育っていくのではないかと思います。

多様な視点からの森林づくりを

日本人の多くは、森林を単なる植物のかたまりだと思っています。しかし欧米人にとっては、そこにシカやイノシシが走り、チョウが舞い、小川には魚が跳ねていてこその森林です。彼らには狩猟や牧畜の伝統がありますから、動物と一体となった森林というものが意識の中にあるわけです。日本はそういう意識がないから、野生動物との軋轢が各地で起こっているのです。

だから私は、動物のいる森林をつくりたいんです。そのかわり里に出てきたら、悪いけれど駆除をする。そうやってキチンと動物と人間の棲み分けができれば、人間にとっても森林は新たな魅力を持つものになると思います。

いま丹波の森公苑には、オオムラサキ(日本の国蝶)の幼虫の食草であるエノキを170本植えて並木をつくり、また成虫が樹液を吸うためのクヌギも250本植えて、蝶の森をつくろうとしています。昨年はオオムラサキが50数頭孵ったのですが、阪神圏から1000人くらいが見に来ましたよ。今は幼虫が1500匹くらいいます。クヌギもずいぶん育ってきて、カブトムシなんかも来るようになったので、子供たちにとっては楽しい森になりつつあります。

いま、「国民参加の森林づくり」運動の中で必要なのは、「自然や森林と親しもう」という掛け声ばかりではなく、森林をいろんな視点から見ることができる人材の育成、もしくは、そういう人たちが繋がっていくことだと思います。そうしていろんな視点から森林づくりをしていくことによって、森林に対する新しい価値観を育てていくことが求められているのではないでしょうか。

※ 『ぐりーん・もあ 41号(2008 春)』(国土緑化推進機構 発行)から引用しました。