森づくりインタビュー - 服部 津貴子さん

「森づくり」について各界の著名な方に語っていただきました。

日本における「食育」の第一人者であり、その普及に情熱を注いでおられる服部津貴子さんは、テレビ等でお馴染みの服部幸應さんの妹さんである。また服部さんは、農林水産省徳用林産振興委員、さらには「美しい森林づくり全国推進会議」発起人でもあり、森林・林業の世界にも大いに関心を寄せていただいている。今回はそんな服部さんに、みどりに対する想いをうかがいました。

「すべてのものへの感謝の気持ちを忘れずに
森や木もきっと、その気持ちに応えてくれるはず」

服部 津貴子さん

服部栄養料理研究会会長 美しい森林づくり全国推進会議発起人

東京都生まれ。フランス・スイスの料理学校に留学。帰国後、1972年に服部流家元に就任。他に服部栄養料理研究会会長学校法人服部学園理事として、食育を広める活動に携わっている。『「おいしい」食育講座』『季節の食育』『はじめての食育(共著)』『世界の朝ごはん(監修)』『世界のお菓子(監修・著)』等、著書は多数。

フランスで体験した食育そのものの暮らし

私は、東京都の中野区で生まれ育ちました。そのころは、どの家も庭が広かったので、私の家では生き物好きの母が、たくさんの動物や鳥を飼っていました。ニワトリも300羽くらいいたんですよ。庭には畑もあって、トウモロコシなどいろんな作物を育てていました。そんな環境で暮らしていましたから、小さい頃から緑や土には親しんでいましたね。

フランスに留学した時には、学校の先生の家にホームステイをしました。その先生の家はパリ郊外の森の近くにあって、お休みの日には家族みんなで森に行き、四季折々の木の実やベリー類を収穫してジャムなどをつくって、日常的に食べていました。もちろん家庭菜園もあって、そこでできた作物が毎日食卓にのっていました。まさに食育そのものの暮らしで、彼らは全く食べ物を無駄にすることがありませんでしたね。

若いときにそういう経験をしたからでしょうか、私は緑があるところに行くと元気が出るんですよ。今でも都会の生活に疲れた時は、緑が多いところまで、パワーをいただきに出かけています。

自然に根ざしたキノコ生産も残してほしい

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キノコや山菜などの特用林産振興については、20年前くらいに「日本のキノコを世界に知ってもらうための協力を」というお話をいただいてから、現在までずっとお手伝いをしています。やはりキノコ類は日本産が最高です。海外産のシイタケやマツタケとは、香りがまるで違いますね。

食物繊維やビタミンB群の豊富なキノコは、現代の日本人の生活にはとても合っていると思います。特にシイタケは、太陽に当たるとエルゴステリンという物質がビタミンDに転化します。このビタミンDはカルシウムの吸収を良くする働きがあるので、干しシイタケを食べると骨粗鬆症とかストレスに強くなるんです。最近の干しシイタケは人工乾燥のものが多いのですが、使う前に1時間くらい太陽に当ててあげれば、天然乾燥の干しシイタケと同じ効果が得られますよ。

現在は、工場で大量にキノコを生産する会社が増えています。クリーンなつくり方でフレッシュなものを供給していただけるのであれば、それは大変良いことだと思います。でも、一方で昔ながらの栽培方法も、なんとか維持してほしいですね。コストの問題や原木不足、担い手不足といった難しい局面があって、簡単には言えない問題ですけれど、自然に根ざした生産をなくさないということは、これからの日本にとって、とても大切なことだと思います。

食育では「自然が原点」というところから教えたい

「いただきます」は、お皿の上の食べ物に対して、「あなたの命をいただきます。本当にありがとうございます」という意味です。「ご馳走さま」は食事をつくってくれた人に対して、「(地産地消の意味で)四里四方を走り回って食材を調達して、美味しいものをつくってくれて、ありがとうございます」という意味です。このように日本人は、食事の前後に必ず感謝の気持ちを表現していました。それが今では、新聞でも話題になりましたが、小学生のお母さんが「ご馳走さまと言うことを強要しているが、こっちは給食費を払っているんだ」と学校に怒鳴り込むような時代になってしまっています。このように感謝の気持ちを失ったことが、食も含めて、現在社会に様々な支障をきたしているのではないでしょうか。
誰だって、無視されるより感謝をされたほうが、それに応えようとするじゃないですか。それは、人間でなくても同じことです。森や木にも感謝の気持ちを向ければ、それに応えてくれると私は信じています。もう少し、森や緑、きれいな空気や水、そして太陽があることのありがたさを認識して感謝するようになれば、いろんな面でプラスが出てくるはずです。日本の緑は世界一なのに、その素晴らしさを認識しないと、宝の持ち腐れになってしまいますよ。

ある先生の研究によると、感謝の気持ちを持つとプラス思考になり、血液循環を良くする善玉コレステロールが増えるのだそうです。そういう意味でも、感謝の気持ちを持つことは大切なんです。

平成17年に食育基本法が成立して、日本でもやっと、食に対する意識が高まってきました。実はいま、小学生の頃からもう、糖尿病の予備軍になってしまっている子供がみられます。栄養バランスが欠けてしまうと病気になることを、小学生のうちから教えて、自分が食べるものを選択できるようにしてあげなければなりません。いくら勉強ができても、病気になってしまっては意味がないのですから。

それにはやはり、きれいな空気と水と太陽が、そして緑が、いろんなものを生産してくれているという原点から教える必要があると思います。そのためにも、そういうことを分かりやすく実体験できる場として、豊かな緑を守ることは大切ですし、そういう意味でも、国民参加の森林づくりや美しい森林づくりといった運動には、大いに期待しています。

※ 『ぐりーん・もあ 43号(2008 秋)』(国土緑化推進機構 発行)から引用しました。