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プロジェクトのキックオフ
2007年秋、オープン10 周年を迎える「トヨタの森」。この10年間の歩みを振り返りながら、最近では共通の考え方となりつつあるCSR の、特に社会貢献の側面からその時々の基本的な考え方や判断理由を再確認することによって、これから進むべき方向性やグランドデザインを考える上でのヒントを得ることができるのではないかと思う。
1997年10月13日。この日、愛知県豊田市近郊にある当社の保健保養施設フォレスタヒルズで開催された「環境緑化シンポジウム」において、それまでは社内技術部門の一プロジェクトであった「トヨタの森」計画が、一般向けの環境緑化(= 緑による環境の改善)に関する啓発活動に衣替えし、本格的な再スタートを切った。
これに先立って1996年度から開催され、取り組みに対する理論的なバックボーンを与えたのが「杜の会」による研究提言活動である。これは、わが国を代表する環境・緑化に関する7 名の学識経験者による自主研究会で、1996年から1999年の間に合計15 回、合わせて10 名のゲストを迎えて開催された。ここでの研究成果は、二度にわたる提言、すなわち「里山ルネッサンス」(1998年3月)および「自然の森と街の森から、地球温暖化防止を考える~森林資源の活用・循環のあり方~」(2000年3 月)という形でまとめられ、公表された。これらの報告書は、残り少ないが今でも希望者には無料でお渡ししている。
「トヨタの森」に関する研究開発や事業活動など、現在に至る10年間の取り組みの方向性は、結果的にではあるがすべてこれらの提言に沿ったものとなっており、いかに先見性に優れた提言であったかを余すところなく示している。
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難航した船出
このようにしてスタートを切ったものの、モデル林開設当時は先が全く見えない、一体これを誰が見にくるのかというまさしく手探り状態での船出だった。モデル林開設当時、社内的には丁度1997年12月のプリウス発売を契機に始まるエコプロジェクトの一環として位置づけることで、何とかゴーサインを得ていたが、「杜の会」による研究活動ならびに「トヨタの森」計画の推進が、社長が委員長を務める社会貢献活動委員会に付議されたのはさらに2年前の1995年であり、その当時の許可理由はまったく別のものであった。
すなわち、1995年の社会貢献活動見直しにおいて国内重点テーマとして今後取り組むことが決定されたのは「科学技術の振興」と「芸術文化の普及」の二本柱であり、環境緑化に関わる活動は、先端科学技術研究助成などとともに、当社内の技術シーズ(種)を生かした科学技術振興への貢献活動の一つと位置づけられた。
そして、このプロジェクトが成功するか否かは、1990年頃より技術部内で始まっていた遺伝子操作による大気浄化能力に優れた新品種の開発など、バイオテクノロジーの基礎研究が文字通りうまく実を結ぶかどうかに掛っていた。これらの基礎研究が、将来的には事業化を前提としていたことは言うまでもない。
つまり、外向きには社会貢献活動ではあるが、社内での実施理由は「ビジネスの種」という捉え方であったということになる。
トヨタの森 フォレスタヒルズ・モデル林入り口
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希少種発見と万博が流れをつくる
このような理由で承認を受けたプロジェクトではあったが、1996年モデル林整備途中での新たな希少植物群の発見および遺伝子汚染の社会問題化によって大きく方向が転換することとなった。
この希少植物の代表が、後に万博の開催場所を変更させることとなったシデコブシであり、1996年に行われた最初の詳細調査で約200 個体が確認された。これによって、希少種に充分配慮しつつ新しい整備手法や木質資源の活用方法を探るというコンセプトでモデル林を再配置し、里山活性化のための実験研究ならびに環境学習のためのフィールドという新たな位置付けについて、改めてトップの了解を得て推進が図られることとなった。この見直しの方向性を定めた最大の要因が、97.6.12.BIE 総会での愛知万博開催決定だ。愛・地球博はメーンテーマに「自然の叡智」を、また、サブテーマの一つに「循環型社会」を掲げて開催されたが、これらは「トヨタの森」が目指す社会のコンセプトと共通であり、さらに、同じ愛知県の里山ベルト地帯での開催決定でもあったため、前述の位置づけ見直しに際して強い追い風となった。そして、モデル林開設後6年間で、万博関係の見学者が延べ250人という来場ラッシュにつながっていく。
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エコのもりセミナーとエコモニタリング開始
話は戻って、1997年10月の環境緑化シンポジウムにおける当社のコミットメントは、環境教育活動と継続的な生態系調査の実施の二つで、いずれも「杜の会」提言に沿ったものである。翌1998年から、それぞれエコのもりセミナーおよびエコモニタリングとしてスタートした、いずれも社会貢献プログラムとしての「トヨタの森」を特徴づける大変意義深いプログラムだ。
エコのもりセミナーは、1998年度から2004年度まで日本環境教育フォーラムとの共催で開催。里山保全や森を軸とする循環型まちづくりを担う専門的人材の育成や親子・ファミリー向け森遊び倶楽部など、一般からの参加者を募って開催した。活動PR に特に力を入れ、実施結果報告を掲載した環境gooHP への総アクセス数は最大で年間29 万件にも達した。
なお、このプログラムは2009年度から「豊森(とよもり)」という、地元豊田市とNPO地域の未来・志援センターの3 者が協働して森を活用した人づくり・地域づくり・仕組みづくりに取り組むプログラムに生まれ変わる予定だ。
もう一つのエコモニタリングでは、1998年度から2007年度まで、整備方法の違いが森林生長量に与える影響の解明や、常時公開中の湿地管理手法に関するスタディ、里山に生息する哺乳動物の追跡調査など、数々の専門的な調査を実施した。その結果は中間段階でHP上で公開、2008年度には最終成果の公開を予定している。これらの調査結果や調査手法・進め方は、トヨタの森でのインタープリテーションのレベルアップに大きく貢献することとなった。
「エコモニタリング」での
リター(落葉・落枝)回収の様子
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森づくりの3段階論
一方で、1998年にはオーストラリアでの合弁による植林事業が始まり、1999年にはトヨタの森プロジェクトを実質的に担ってきた技術部門の部隊が事業開発部に異動。プロジェクトのメーン担当部署も総務部に移管となり、2001年にはバイオ・緑化事業部が事業開発部から独立した。
この頃、森来訪者へのガイダンス用に新たに森づくりの位置づけ3 段階論を考案した。
■トヨタの森づくり活動 位置づけ3段階論
第1フェーズの研究開発で技術シーズを育て、第2フェーズの社会貢献で大きく社会にアピール、第3フェーズの事業で活動の安定化・定着化を図るというもので、それまでの活動が会社業務の中でどのように位置づけられるかをビジュアルに表現した。
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学童への体験指導開始
次いで、2001年度試行、2002年度から本格展開された学童への自然ふれあい体験指導開始が、二度目の大きな転機になった。この五感を使った自然ふれあい体験学習のために「トヨタの森」を訪れる、地元豊田市を中心とする小学校児童が今や最大の顧客であり、現在ではトヨタの森の中心活動となっている。
具体的には、平日の午前中にクラス単位で受け入れており、専任のインタープリター二人が自然生態観察園や周辺樹林内で自然ふれあい体験指導を行う。その狙いは、五感による体験を通して、まずは食物連鎖や生命の繋がりについて知り、生命を大切にする気持ち、自然への感謝と畏敬の念を育むということ、さらには、自然の不思議さ、面白さ、神秘さに気づき、人と自然、人と社会についてのさらなる学びのきっかけとしてもらおうというもの。どんぐりころころなど、遊びを通して学ぶアクティビティもいくつかとり入れているが、何といっても大人気なのは自然の生き物たちを直に触るアクティビティや、葉っぱをかじって味わうアクティビティ。
最近では、インタープリターが教科の組み立ての相談に乗ったり、土壌微生物など特定のテーマについて直接学校に出向いて指導したりと、活動の幅もさらに広がりを見せている。
自然生態観察園での体験指導風景
■トヨタの森学童来場者数推移
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エコの森ハウス建設と愛・地球博の開催
2003年5月、「里山学習館 エコの森ハウス」がオープン。ちなみに、1998年度の本格立ち上げに際して駐車場に建てた仮設プレハブ小屋がエコの森ハウス竣工までは唯一の拠点施設であり、先が見通せないままでの難しいスタートであったことを、今の残るその姿にとどめている。バイオマスが開く持続可能な循環型社会づくりをテーマとする展示施設が併設された「エコの森ハウス」は139m3に及ぶ地元三河杉材を使った4棟の建物から成り、バイオマス活用に主眼を置いたこれからのエコ・ライフスタイルを提案している。
2005年3月、愛・地球博開幕。来場者増を期待し、会期中は休館日なしのエコの森ハウス無休体制を整えたが、期待したほどの成果は得られなかった。自然体験型のフィールドミュージアムに一般観光客を呼び込むことは難しく、ターゲット絞り込みへの貴重な学びとなった。
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社会貢献推進部の発足とコンセプトの再構築
2006年1月、社会貢献推進部が新たに発足し、総務部から新部に業務移管。同じ時期に、さらなる来場者増を図るため、環境や教育とは異なるもう一つのテーマ「健康」に関するプログラムの新規開発を進めた。2007年1月、グローバルな森づくりコンセプトの検討、森林関連取り組みの体系化・再構築にも着手。今後10年程度を見通した長期的な森林関連活動方針について、関連部署との協議を開始した。
低迷が続く国内林業に対する取り組みスタンスや行政との役割分担、バイオを含む新しい技術開発の可能性、そして、アジア植林をCSR の観点からどう位置づけるか、かつての大量森林伐採・輸入に対する補完や生息地ネットワークという捉え方でよいのか、永久凍土を溶かす北方林減少への対応など、考慮すべき難しい課題が山積しており、現状ではなかなか思うようには捗っていない。ヒントがあるかもしれないと「杜の会」提言を見返したりしている昨今だが、最終的には社業での位置づけ如何となってくる。
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社外からの評価とまとめ
このような10年間の「トヨタの森」活動に対し、「第24 回緑の都市賞 国土交通大臣賞」「第8回木の使い方コンテスト最優秀賞」など、それなりの外部評価を得ることができた。言うまでもないが、これらは社内外でのPR には有効だが、決して賞を取るために活動を進めてきたわけではない。このような外部評価を得られたという前提で、社会貢献自主プログラムのあるべき姿・進め方について考えられるポイントは、以下のような当たり前のことばかりである。
企業が取り組みを期待されている社会・環境ニーズはきわめて多岐にわたるが、それらの中から何を選び、どう取り組むべきか。要は、社会・環境ニーズに対する取り組みをどうやって社業の中に合理的な形で位置づけることができるか、そこが想いをカタチにする企画担当として一番の知恵の出しどころだ。但し、決して位置付けるべきマトリックスは一定のものではない。例えばCSR の考え方のように、常に変化し、時代とともにその姿を変えていくということを忘れてはならない。そのため、時代を読むということ、そして次にその中での自社ポジションの現状と目標を見極めることが必要となってくる。大きなプレッシャーを感じるが、だからこそやり甲斐のあるテーマでもある。何とか近いうちに新たな道を切り開きたいと思う。
いずれにしても、自動車メーカーとして環境取り組みに関する使命には終わりはない。究極のエコカー誕生後も、引き続きサスティナブル社会づくりに向けた取り組みが必要だ。
■「トヨタの森」主な受賞歴
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お問い合わせ
トヨタ自動車株式会社 社会貢献推進部 池上博身
TEL:0565-23-3587
FAX:0565-23-5748
E-MAIL:hiromi_ikegami@mail.toyota.co.jp
URL:http://www.toyota.co.jp/toyotanomori
