森林の多面的な機能
 
地球温暖化と日本の森林
 京都議定書が発効することによって、日本の森林管理の考え方の中に、国際的約束という、これまでにはなかったファクターが入り込むことになった。そのことによって、新たな管理目標が掲げられたり、国民参加の森林づくりに新たな動きが出てきている。2008年は京都議定書の第一約束期間の初年度にあたる。
 今回の特集では、あらためて地球温暖化対策と日本の森林管理の関わりをおさらいするとともに、日本各地での様々な動きを紹介する。

contents

数字から見る
日本の森林に
おける
地球温暖化対策
 京都議定書が発効してから、森林づくりの世界に「森林吸収源3 . 8 % 」「330万haの間伐推進」といった数字が登場するようになっている。「世界的な約束である京都議定書の目標を達成しなければならないことは理解できるが、この数字の意味が分からない」といった声をよく聞く。
 ここでは、その数字の根拠を元に、日本における温暖化対策と森林との関係をあらためて紹介する。

地球温暖化対策における森林の役割の意味

 地球温暖化を緩和するために最も重要なのは、人の手によって排出されている二酸化炭素等の温室効果ガスを減らすことである。とはいえ、いくら排出量を減らしても排出していることに違いはなく、やはり大気中の温室効果ガスは増えていってしまう。一方、光合成によって二酸化炭素を吸収して炭水化物をつくりだし、それを蓄えることで成長していく森林は、大気中の二酸化炭素を減らす力を持っている。その点がことさら注目されているが、地球温暖化における森林の重要性は、このことだけではない。
 「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第4次評価報告書では、森林・木材による地球温暖化緩和策として、(1)森林面積の維持・増加、(2)個別森林レベルでの森林蓄積の維持・増加、(3)景観レベルでの森林蓄積の維持・増加、(4)木材製品の活用が掲げられています。注目したいのは、森林面積や蓄積の増加だけでなく、特に”維持“が強調されていることです。図を見てもらえば分かりますが、土地利用変化による排出、すなわち森林減少によって、毎年16億tもの炭素が排出されています。吸収量と差し引きすれば、正味10億tの吸収となってはいますが、森林減少による排出は総排出量の20%も占めているのです」と言うのは、独立行政法人森林総合研究所温暖化対応推進室室長の松本光朗さん(2008年当時)。
 地球レベルで見ると、森林を中心とした陸域の生態系による炭素吸収量とほぼ同じ量が海に溶け込んでいるが、これは人の手でコントロールできるものではない。しかし森林は、人がどう関わるかによって吸収源にも排出源にもなりうるのである。ここに地球温暖化防止における森林の大きな意味合いがあるわけだ。
 「例えば、カナダは広大な森林を持っていて、かなりの量の炭素を吸収しているだろうと思われていたのですが、最近の報告によると、カナダの森林は逆に炭素排出源となっていることが分かりました。山火事や、パイン・ビートルと呼ばれる害虫による被害が増大していることによって、森林が成長することによる吸収量よりも、それらの被害による排出量の方が上回っていたのです。ただ森林があるだけでは不十分で、それが適切に管理されていることこそが重要だということです」

■1990年代の地球上の炭素循環( 炭素t/年)(IPCC第4次評価報告書より作成)  

土地利用変化(森林減少)による排出は16億炭素t/年。
総排出量の20%にあたる


森林吸収源の活用に慎重だった日本

 地球温暖化防止と日本の森林の関係において最もよく耳にする数字は、森林吸収源の「3.8%」だろう。では、この3.8%という数字は、どのような経緯から出てきたものなのだろうか。
 まず、その根本にあるのは、1997年に京都市で開催された「第3回気候変動枠組条約締結国会議(COP3)」で採択された『京都議定書』である。京都議定書では締結国の温室効果ガス削減目標値が設定され、その達成のために森林の二酸化炭素吸収量を活用することが認められた。第一約束期間(2008年~2012年)における日本の削減目標は、1990年の総排出量比で6%となった。
 「実はCOP3を迎える前まで、日本は森林を吸収源として活用することに対して慎重な立場を取っていました。日本のような国土(森林)面積の小さな国は、広大な森林を有する国と比べて不利になるのではないか、というのがその理由です」と言うのは、林野庁森林整備部研究・保全課課長補佐(森林吸収源企画班)の野畑直城さん(2008年当時)。
 それまでにもしっかりと省エネ対策をしてきていた日本としては、「森林吸収源無しで2.5%の削減が精一杯」という立場でCOP3の交渉に臨んだ。しかし、EUが15%、アメリカが0%削減を主張するなかで、当時のアメリカの副大統領であったゴア氏が「京都メカニズム等の柔軟な措置を認めるのであれば0%から増やしてもよい」としたこともあり、議長国として譲歩せざるを得なかったのだ。その結果として、森林吸収源や京都メカニズムを組み込んだ形で、日本が6%、アメリカが7%、EUが8%削減とすることに落ち着いた。
 とはいえ、この段階ではまだ森林吸収量としてどれだけの数値を認めるかは決められていない。それが決まったのは2001年、COP7での『マラケシュ合意』である。

1300万炭素t という上限値と3.8%

 マラケシュ合意前年(2000年)のハーグ会議では、森林吸収量算入の上限を巡って交渉が決裂していた。「その国の全森林の吸収量の15%、もしくは総排出量の3%のどちらか少ない方を森林吸収量の上限として認める」という提案が示されていたのだが、日本は削減目標6%のうち、実力として可能な2.5%を差し引いた残りの3.5%が森林吸収量として認められなければ達成できないため、それを受け入れていなかったのだ。ロシアやカナダなども、それぞれの理由から、同様にこの提案を受け入れていなかった。そんな最中の2001年3月、アメリカがブッシュ政権になり京都議定書から離脱してしまった。さらに森林吸収源で揉めている日本やロシア、カナダが離脱してしまうと京都議定書自体が発効しなくなってしまう可能性が出てきた。そこで本来は森林吸収源に対して慎重な立場だったEUが大幅に譲歩し、日本の森林吸収量の算入上限値を1300万炭素t とすることで合意したのである。
 「2005年に京都議定書が発効し、そのことを受けて閣議決定した『京都議定書目標達成計画』で、国として森林吸収源をフルに活用するということを決めました。国際上の公約は6%削減であり、年間1300万炭素t の森林吸収量はあくまでも削減目標の達成に使える上限値です。経済界の負担や国民生活の低下等を招かないように、6%のうちの3.9%(当時)は森林でまかなうと、国内的に意思表示したわけです。なお、この3.9%は、現在は3.8%とあらためられています」と野畑さん。
 当初3.9%といわれていたものが3.8%となったのは、2006年8月に気候変動枠組条約事務局に提出する報告書のために精査した結果、日本の基準年の温室効果ガス総排出量が当初よりも増えたことによる。それに対して森林吸収量の上限値は変わらないため、結果として3.9%から3.8%にあらためられたのだ。
 ちなみにカナダでは、先に紹介したように森林が排出源となっているため、森林吸収量を排出削減目標に使用しないことにしたとのことである。

■各国の年間森林吸収量の算入上限値

日本が算入上限値として認められた
森林吸収量は1,300万炭素t。
52.0炭素t/km2という数値は締結国の中でも破格の扱い


●3.8%という数字は、あくまで国際的な約束である1300万炭素t という数字にもとづいて算出された割合であり、経済界の負担や国民生活の低下等を招かないように「3.8%は森林でまかなう」と国内向けの意思表示として示された数字である。他国に比べ、単位面積当たりの森林吸収量において破格の数値が認められた日本は、当然ながら各国の厳しいチェックを受けることになる。



■京都議定書報告の対象となる我が国の森林による炭素吸収・排出量
  (2006年度、万炭素t)

2006年度の日本の森林全体の吸収量は2,274万炭素t
だが、京都議定書報告の対象森林だと1,015万炭素t


(日本国温室効果ガスインベントリ報告書:2008.5、京都議定書3条3及び4の元でのLULUCF活動の補足情報に関する報告書:2008.5)

●現状では、対象森林の森林吸収量の上限値1300万炭素t には届いていない。森林経営として認められる森林をさらに広げていくことが必要となる。

京都議定書の算入対象となる森林は3種類

 京都議定書では、締約国は温室効果ガス排出・吸収目録(インベントリ)を毎年作成し、原則として翌々年の4月15日までに条約事務局に提出することが義務づけられている。つまり、2008年提出したインベントリは2006年度の数値ということになる。
 その報告のために算出された日本の森林全体での炭素吸収量は、実は2274万炭素t あり、1300万炭素t を軽く超えている。しかし、日本の全ての森林を吸収源として算入できるわけではない。京都議定書で森林吸収源の対象として認められる森林は、(1)新規植林:過去50年来森林がなかった土地に植林、(2)再植林:1990年時点で森林でなかった土地に植林、(3)森林経営:持続可能な方法で森林の多様な機能を十分発揮するための一連の作業、の3種類である。
 「(1)新規植林(2)再植林は、京都議定書の3条3項に定められているもので、国土面積の約7割が森林である日本では、こういうケースはほとんどありません。さらに3条3項では森林減少、つまり基準年の1990年以降に森林を開発したりして他の用途に転換したものについても報告をしなければならず、これらを差し引きすると排出になってしまいます。このような事態を救済するために3条4項に(3)森林経営があり、1990年以降に人為的な行為をしたところに関しては任意で加えても良いということになっています。日本の場合、1300万炭素t を確保するためには、これを加えることがどうしても必要なわけです」と野畑さん。
 日本の場合、森林経営として認められる森林は、次の2つのものである。この定義は、平成18年にIPCC事務局に報告され、その審査を受けて認められている。
  • 育成林(人手が加えられ育てられている森林)
    ……森林を適切な状態に保つために1990年以降に行われる森林施業( 更新:地拵え・地表かきおこし・植栽等、保育:下刈り・除伐等、間伐、主伐)が行われている森林
  • 天然生林(自然の力で成立・維持されている森林)
    ……法令等(保安林、国立公園等)に基づく伐採・転用規制等の保護・保全措置が講じられている森林

 そしてこの算入対象森林による吸収量は、2006年度の段階では1015万炭素t (基準年総排出量比3.0%)しかない。ということは、新規植林と再植林を行う余地がない以上、森林経営として認められる森林を増やしていくほかないのである。

330万ha間伐推進の意味

 「美しい森林づくり推進国民運動」では、京都議定書森林吸収目標達成のために2007年度から6年間で330万haの間伐を実施することを、目標のひとつに掲げている。この数値は、2007年度に全面改定された『京都議定書目標達成計画』での試算が元となっている。では、この330万haという数字は、どのような根拠から出てきたものなのだろうか。
 「まずは、1300万炭素t の吸収を行うためには、これまでの水準の森林整備で確保が見込まれる森林吸収量にプラスして110万炭素t のさらなる確保が必要という試算が、大本になります」と野畑さん。
 全国調査の結果、育成林において基準年となる1990年以降に手入れが行われており、現時点でも算入対象森林としてカウントできる森林は450万ha。さらに、これまでの予算水準を前提として、2006年度から2012年度の間に間伐等の手入れが行われるであろうとされる森林は225万ha。これに、主要樹種の成長量データ等から算出している育成林1haあたりの単位炭素吸収量(1.35炭素t /ha)を掛けると、910万炭素t となる。一方で天然生林は、国有林を中心にして保安林を拡大していくことによって660万haとすることが見込まれており、これに単位炭素吸収量(0.42炭素t /ha)を掛けると280万炭素t。つまり1300万炭素t マイナス(910万+280万炭素t)の110万炭素tが足りないわけだ。
 この110万炭素t を、育成林の単位炭素吸収量で割れば、約80万haを新たに整備すればよいことになる。しかし実際には、そう単純ではない。京都議定書の第一約束期間は2008年から2012年の5年間であり、この年平均排出量を6%削減するのが日本の公約だが、インベントリは毎年提出しなければならない。80万haすべてを今年中に整備できてしまうのならばそれでよいのだが、当然そういうわけにはいかない。毎年少しずつ整備して算入対象森林を広げていくことになり、インベントリに反映できる算入対象森林の面積も毎年変わっていく。その状態の中で、年平均110万炭素t をさらに確保しなければならないのだ。
 「そういったことを勘案して導き出したのが、2007年度から毎年20万ha、2012年度までの6年間で120万haの森林整備の追加、という数字です。これまでの森林整備の水準プラス、単年度平均で20万haの追加的な森林整備を続けていくことで、年平均1300万炭素t の吸収量が確保される、ということです」
 もちろん、現行の予算水準で整備が進められるであろうと考えられている部分も、実際に整備が行われなければ算入対象森林にはならない。そのため現行の予算水準で見込める年間平均35万ha程度の整備量(ここ数年の間伐面積の平均値)に、この追加分の20万haを足した年間55万haの整備を推進していかなければならないわけだ。それを2007年度から2012年度にかけて行うので、55万ha/年×6年で330万haの間伐推進、ということになるのである。

1300万炭素t の確保には、さらに110万炭素t の確保が必要。
そのためには、毎年20万ha、6年間で
120万haの森林整備追加が必要


(林野庁資料より)


●これまで通りの水準で森林整備を進めていては、京都議定書の目的を達成できない。そのために、政府一体となった取り組みにより、年間で+20万haの森林整備を行う必要がある。



■美しい森林づくり推進国民運動の目標

美しい森林づくり推進国民運動によって
330万haの間伐を推進


(林野庁資料より)


●現行水準で整備される見込みの部分も、実際に整備されなければ京都議定書において算入対象森林とは認められない。そのために、2007年度からの6年間にわたり、追加分の20万haだけではなく、現行水準の整備面積も合わせて年平均55万haの間伐の推進を謳っている。

なぜ間伐を推進するのか

 前述したように、育成林として認められる森林施業は、更新や保育、主伐も含まれる。その中でなぜ、特に間伐を重視するのだろうか。
 「その理由として、日本の育成林1140万haのうち、間伐が必要な16~45年生の森林が約6割と、大勢を占めていることがあります。人間で言えばちょうど中学生から大学生といった食べ盛りの年代にあたり、それよりも若かったり、老齢化した森林よりも炭素吸収量は多くなります。ですから同じお金を掛けるのであれば、この林齢の森林を対象にした方が効率的に吸収量を確保できるわけです。もちろん、京都議定書の目標達成のためだけに間伐を推進するわけではありません。いま間伐を行っておけば、10年後には木材として利用可能な森林が約6割になると見込まれており、自給資源の確保としても必要なことです。また、間伐が遅れて過密化した森林は、公益的機能が低下し、風倒木被害等の災害につながる可能性も高くなりますから、国土保全や水源涵養といった機能を発揮できる健全な森林にするためにも、間伐は行わなければならないのです」と野畑さん。
 これまでの予算水準であれば、追加分の年20万haの間伐は、その必要性が叫ばれながらも結局は行われることはなかったはずだ。誤解を恐れずに言えば、京都議定書目標達成のために、従来の林野行政予算だけでなく、政府が一体となり国全体の予算を使えるいまこそ、手入れが遅れている日本の森林の整備を進めていくチャンスでもあるのだ。
 「間伐をしないよりも、間伐をした方が実際に吸収量は多いのか」という疑問をよく聞く。これについては、森林総合研究所において、長期にわたって計測され続けてきた間伐比較試験地のデータによって、間伐直後の成長量、つまり炭素の吸収量は一時的に間伐林の方が劣るが、間伐後5年以上経つと間伐林の方が優勢になる場合が多いことが明らかにされている。また、植林から現在までの成長量を比較しても、生立木だけをみれば無間伐林の方が多くなるが、間伐木の量も含めると間伐林のほうが多くなっている。京都議定書ではルール上、利用木材の炭素ストックは加算されないことになっているが、間伐を行うこと自体により、その森林は算入対象森林となる。またこの例を見れば、京都議定書と切り離したとしても、大気中の二酸化炭素をより多く吸収・固定するためには、間伐することと、その間伐材を木材として利用することが大切であることが分かる。

間伐をした森林は、間伐をしなかった森林に比べて炭素吸収量は1~2割増

■植林から現在までの成長量(代表的な例)


■間伐前後における一定期間の年平均成長量(代表的な例)

(森林総合研究所成果選集より)

●間伐することが即、吸収量の増加につながるわけではない。しかし、伐採した木材を利用することも含めて長い目で見れば、間伐することはより多くの炭素吸収につながる。

実際の吸収量の算出方法

 毎年提出することになるインベントリでは、透明性があって科学的に検証可能な方法で森林吸収量を算出しなければならない。特に日本は他の国と比較して、森林吸収量として単位面積当たりにすると破格の数値が認められていることもあり、当然厳しくチェックを受けることになる。そのために森林総合研究所では、あらたに森林吸収量の算定・報告手法の開発を行うとともに、それを実行するための国家森林資源データベースを開発している。
 「具体的には、京都議定書の報告のために必要な情報を得るために、(1)森林バイオマスに含まれる炭素量、(2)新規植林、再植林、森林減少が行われた場所の抽出・特定方法、(3)森林経営が行われている森林の抽出・特定方法、(4)枯死木・リター・土壌中の炭素量の算定方法、(5)森林簿など行政情報の検証と品質向上などについて、調査・開発、検証を行いました」と松本さん。
 (1)は、森林の炭素吸収量を推定するベースとなるものである。樹種ごとに材積から枝葉や根も含めた炭素量を求めるための拡大係数や標準的な容積密度などを明らかにすることにより、森林による吸収量(炭素t/年)=幹の体積の増加量(m3/年)×容積密度(t/m3)×炭素含有率(全ての樹種で0.5)で求めることができるようになった。
 (2)については、日本の国土全体に500m間隔のプロットをとり、1989年末時点の空中写真画像と直近の人工衛星画像を比較することによって、土地利用変化や土地被覆変化を把握する手法が取られている。
 (3)については、2003年から全国の育成林を対象とした抽出調査を行っており、森林の現況(樹種・林齢・本数)や1990年以降の施業の有無や内容について調査している。その結果に基づいて、森林経営に該当する森林面積割合(FM率)を所有形態・区分/樹種・地域ごとに算出している。森林経営に該当しなかった森林については追跡調査を行うため、FM率は毎年変化することになる。
 (4)については、気候や土壌条件等の情報を反映させることで、樹種別・都道府県別に施業が行われることによる土壌炭素等のストック量の変化が計算できるモデルが開発されている。
 「これらの情報をインプットして算出するシステムとして開発したのが、国家森林資源データベースです。”森林簿“や”森林計画基本図“といった行政情報をベースに、その蓄積量について検証を行うための林分調査や森林モニタリング調査、面積や位置について検証を行うための空中写真、衛星写真データといった、日本の森林をカバーする多様なデータを搭載しており、いつでもそれらを解析し、算定・報告することができます」と松本さん。
 インベントリで報告する炭素吸収量は、単純にいえばこれらのデータを使って、まずは日本の全森林における炭素吸収量を計算し、それに各地のFM率を掛け合わせることによって求められている。
 「もちろん、日本の森林吸収量をこういった手法で求めることは国際的に承認されています。国家森林資源データベースのシステムも含めて、その細にわたった算出手法については”エクセレント!“と評価されていますよ」と松本さんは胸を張る。
実際の森林吸収量を算出するための数値の例

■森林の炭素含有量を算出するために必要な係数(例)
(『日本国温室効果ガスインベントリ報告書(2008年5月)』、森林総合研究所HPより抜粋)


■平均的な1年当たりの炭素吸収量(炭素t/ha・年)
(森林総合研究所HPより抜粋)



■育成林の民有林・国有林別の森林経営活動に該当する森林面積割合
(FM 率・2006年度) (『京都議定書3条3項及び4の下でのLULUCF活動の補足情報に関する報告書(2008年5月)』より)

京都議定書目標達成の取り組みがもたらすもの

 京都議定書は、国と国とが交わした国際的な約束であり、その約束は必ずや果たさなければならないのは当然だ。しかし国民参加の森林づくりに取り組んでいる市民の方たちからは、「京都議定書が発効したことによって、ことさら間伐推進の掛け声が大きくなったことに違和感を覚える」といった声を聞くこともある。
 「先人の努力により植えられ整備された森林を、いかに次代に向けて資源として充実させていくかが基本です。もちろん、そのためには間伐だけでなく、適切な森林管理や木材利用も同時に行われていかなければなりません。京都議定書では、それをやれば対象森林としてカウントできるわけですが、それは100年先を見据えた森林・林業基本計画で行っている施策と合致しており、ご理解いただきたいと思います。森林吸収源対策というのは、森林の多様な機能を十分に発揮させるための、ひとつの手段なのです」と野畑さん。
 二酸化炭素の吸収・固定という森林や木材が持つ能力がクローズアップされ、それが価値として広く認知されたことによって、カーボンオフセットといった新たな動きも見られるようになってきている。
それもやはり、京都議定書があってのことである。国民参加の森林づくりの展開においても、このような新たな視点が加わり、それに対しての議論や活動展開が活発化していることは、プラスとして捉えたい。
 さらに言えば、国家森林資源データベースという強力なツールができたことは、今後の国民参加の森林づくりにおいても、大いに意義があることとなるはずだ。「そもそも日本の森林の現状なんて、だれも把握していないじゃないか」といった声はよく耳にするし、従来の森林簿に対しても、その不確実さが不安視されていたところもある。
 「私はかねてから、森林資源の全国の統一的なデータベースが必要だと考えていました。温暖化対策ということから制作するとは思ってもいませんでしたが、ついに念願のデータベースが完成したわけです。単なる統計表ではなく、マップとして全国各地の森林資源が見渡せるわけですから、自分でも驚いてしまうくらいのものとなりました。その活用は林野庁に委ねているわけですけれど、開発者としての立場から言わせてもらえれば、吸収量の算出だけではなく、今後の森林づくりにおいても非常に有用なデータとして活用することができると思います」と松本さん。
 国家森林資源データベースの今後の活用法については、検討中であるという。どこまで可能なのかはまだ分からないが、今後、国民参加の森林づくりに携わっている人たちに、より多くの情報が公開され、活用されていくことを望みたい。

国家森林資源データベース出力イメージ @PASCO @INCREMENT P


国家森林資源データベース本体

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市民が森林に
関わる仕組み
としての
地球温暖化対策
 京都議定書の発効以降、市民による森林づくりの世界にも地球温暖化防止の観点が加わり、排出権取引等を含めた様々な動きが出はじめている。企業の森林づくり運動等で「二酸化炭素吸収証書」が発行される事例なども、その一環である。
 ここでは、地球温暖化防止の観点と森林づくりを関連させた活動として、2つの事例を紹介する。

「ウッドマイレージって、知ってはる?」

 2008年の2月9日(土)、10日(日)の2日間、東京都の丸ビルホールにおいて『ストップ温暖化「一村一品」大作戦全国大会2008』が開催された。
 「一村一品」大作戦は、環境省と全国地球温暖化防止活動推進センター、都道府県地球温暖化防止活動推進センターによる2007年からの3カ年事業であり、地域の創意工夫を活かした優れた取り組みによって地域の温暖化対策の一層の推進を図ろうとするものである。そして「全国大会2008」は、事業の初年度である2007年度に全国から寄せられた1074件の取り組みの中から、各都道府県で1件ずつ選ばれた取り組みを審査し、最優秀賞を決めようというものである。
 廃食用油や古新聞の活用、マイカー規制といった多彩な活動が集まった中、最優秀賞に選ばれたのは、京都府立北桑田高等学校森林リサーチ科の活動であった。その活動のキャッチフレーズは「ウッドマイレージって、知ってはる?」

管理放棄地の姿に危機感

 北桑田高等学校は、磨き丸太で有名な京都府の北山林業地にある。1992年度、もとからあった林業科から森林リサーチ科と名を変えた。
 「林業科の時代は、山に木を植えて育てて伐採するという、いわゆる林業作業を中心に教えていればよかったのですが、今は木が全く売れず、林業自体が存続できないような時代です。林業を続けていくためにはどうしたらいいのかという部分で、磨き丸太生産だけではなく、低級材の集成材加工、マシンカットのログハウスづくり等、加工面や製品開発を充実させることで、名称も森林リサーチ科としたのです」
と言うのは、「一村一品」大作戦の指導を担当した原田真自先生(2008年当時)。
  学校として、また学生たちのあいだで、歴史と伝統のある北山林業地でさえ多くの林地が管理放棄されているという現状に危機感を持っていた。これはひとえに、現在の林業が産業として成り立っていないから、つまりは木材が売れていないからである。特に北山林業の場合、その主要製品が磨き丸太であるため、木造住宅であっても和室がつくられないような現在の住宅事情の中では、より厳しい状況に立たされていた。

管理放棄された森林(北山林業地)
そこで、新たな木材加工や製品開発に着手、ということになったわけだが、その一方で「もっと地元産材を使ってほしい」ということも積極的にPRしていくこととなったのだ。

温暖化対策としてウッドマイレージをPR

 「まずは学校の製品から、地元の木を使っているということを証明する必要があります。そこで、2008年度に、京都府から『地元産木材取扱事業体』の認定を受けました。そのための手続き等も、授業の一環として学生たちが行っています」
 その上で学生たちは、地元木材利用の促進を図るためのセールスポイントとして、ウッドマイレージの概念を取り入れたのだ。ウッドマイレージとは、簡単にいえば木材産地から消費地まで輸送距離のことである。輸送距離が長ければ長いだけ、輸送時に発生する二酸化炭素量も多くなる。地元産材を利用してウッドマイレージを短くすれば、輸送時に発生する二酸化炭素も大幅に減らすことになり、ひいては地球温暖化防止にも役立つ、というわけだ。
 学生たちがウッドマイレージの概念をPRしていこうと考えたきっかけとなったのが、地域の木製品販売所で学生たちが実施したアンケートである。そのアンケートでは、京都議定書の内容を知っている人が74%もいたのに対して、ウッドマイレージのことを知っている人は12% しかいなかった。対象は木製品販売所に来店した人( 約150 人)であるから、それなりに木製品に関心がある人たちである。それでも、地球温暖化防止のために自分たちができることの選択肢、もしくは考え方として、ウッドマイレージの概念はあまり知られていないのだ。
 「そういうことから、海外の木材の代わりに地元産材を使用すれば、ベンチならばガソリン換算で40リットル分の削減、ログハウスならば147リットルの削減となるといったように、自分たちでつくった製品が二酸化炭素排出削減にも繋がることをPRしています。正直いえば、地元の人たちはまだ、ウッドマイレージの概念はピンときていないようですが、地元の木材を使うということに関しては、温かい目で見てくれています。今は輸入材も地域産材も原木の値段はほぼ一緒ですから、じゃあ環境によい方を使ってみるか、と地元産材に流れてくれれば成功、ということですね」と原田先生。

間伐促進で発生した間伐材の利用法は

 北桑田高等学校森林リサーチ科では昨年、ウッドマイレージのPRとともに、京都大学が開発したj・Pod工法によるモデルハウスを試作している。j・Podとは口の字型の木枠を45㎝間隔に7本並べて4隅を繋いで箱の形にした、6畳1室分の直方体ユニットであり、このユニットを自在に組み合わせることで、様々な建築物をつくることができる。構造的に地震等に強いこと、低級材や一部間伐材も活用できるため低価格であること、工期が飛躍的に短縮できることが特徴だ。「一村一品」大作戦では、府内産木材取扱事業体となったことからウッドマイレージのPR、そしてモデルハウス試作までを一連の活動として発表している。
 「モデルハウスづくりは、低級材の活用法のひとつとして取り組みました。京都大学側では当初、間伐材を利用することも考えておられたようですが、標準で18㎝幅の木材を必要とするため、ちょっと難しいかもしれません。地球温暖化対策としての間伐促進や、その間伐材の利用法がよく話題にされますが、私としては、それは燃料利用が一番ではないかと考えています。地域の材を地域で加工し、販売する。その工程で発生した端材や間伐材は、加工工場で利用する電力を発電するための燃料とする。こんな感じで地域の林業が循環していくのが理想ではないでしょうか」と原田先生。


左:森林リサーチ科の学生たちがつくったログハウス。
  このログハウスを地元産材でつくることで、ガソリン換算で147リットル削減できることをPR
右:j・Pod工法によるモデルハウス試作

ペレットストーブで「カーボンオフセット」

 理屈上、木質バイオマスを燃料として利用しても、それで発生する二酸化炭素はもともと森林が吸収したものであり、大気中の二酸化炭素は増やさずにすむ。いわゆるカーボンニュートラルである。その観点から、地球温暖化防止と森林との関わりの中に市民にも参加してもらおうという活動も生まれている。

ペレットストーブ普及のためのPR活動
(学校での紙芝居)
長野県伊那市のNPO法人・森のライフスタイル研究所は、木質ペレットを燃料としたストーブの「カーボンオフセット」の仕組みを、2009年度から長野県内に導入する予定だ。この事業には、国土緑化推進機構も緑の募金・創造的公募事業として助成を行っている。
 2005年にNPO法人化した森のライフスタイル研究所は、森林を核とした持続可能な地域社会の構築を目指して活動しており、森林の未利用資源を有効利用することを目的とした木質バイオマスエネルギー普及活動とともに、林業体験活動や子供向けの自然体験キャンプ等を行ってきた。

 「このように一般の方に森林を体験してもらう機会はいろいろと設けているのですが、やはりそれだけでは単発的な体験で終わってしまいがちです。体験の機会とともに、日常生活の中でも森林に関わってもらえるような地域システムをつくっていきたいと考えていました。今回のペレットストーブを使ったカーボンオフセットの仕組みは、そのための仕掛けなのです」というのは、森のライフスタイル研究所代表理事所長の竹垣英信さん(2008年当時)。長野県内にはすでに900台近いストーブがあり、また、これまでにもストーブの開発や普及に関わってきた経験があるからこそできる取り組みである。

間伐体験活動
 「森林づくり活動の世界に地球温暖化防止という新しい観点が加わってきたわけですが、間伐等の作業に関しては、地球温暖化防止に寄与しているという実感があまり伴わないので、これまで関心の無かった人を森林に誘うほどの力はないように思えます。一般の人の関心は、森林そのものよりも、自分たちの生活の中でできることにあります。化石燃料の削減になるということで、ペレットストーブの引き合いは、ここ数年で格段に増えています」

生活の中でできることから地域の森林整備へ

 ペレットストーブ利用者に対しては、ペレットを使用した量に応じて二酸化炭素排出の削減ポイントを発行する。企業側は、そのポイントを買い取ることで、二酸化炭素排出量を相殺する。これがカーボンオフセットの仕組みである。森のライフスタイル研究所はこの両者の橋渡し的な役割を担うことになる。今年の冬は、ポイントの適正な金額や、そのための検証の仕組みなどを含めて、利用者、企業にとってどのような形で関わってもらうのが良いのかを探るための試行が行われる。すでに県内のペレットストーブ利用者への案内は行われており、企業側への営業でも好感触を得ているという。
 「ペレットもストーブも、もともと安いものではありません。それでも使ってくれている人は、やはり環境に良いという考えで使ってくれています。私たちとしては、そういう方たちの想いに対して、何らかのお礼をしたかったのです。
■木質ペレットによるカーボンオフセットの仕組み
 そこで出てきたのがカーボンオフセットの仕組みというわけです。ストーブを一冬使うと、約1t の二酸化炭素排出が削減できる計算になります。国連のプロジェクト等では1t に対して3000~4000円といった感じです。私たちは無謀かもしれませんが、1t あたり7000円くらいの取り引きをしたい、そして、そのうちから運営コスト等を差し引いた5000円くらいは、利用者に還元したいと考えています。やはり、良いことをしたという実感が得られる金額は、5000円くらいでしょう(笑)」と竹垣さん。

 ペレットストーブ利用者は、この5000円をそのまま受け取ることもできるが、それを緑の募金や地元の森林づくり活動等へ寄付する形もメニューとして取り入れる予定である。そのことによってペレットストーブ利用者は、間接的に森林づくりにも寄与できることとなり、さらには「今度は実際に森林に行って活動してみようか」というモチベーションにつながる可能性も秘めている。
 「このカーボンオフセットの仕組みは、単なる温暖化防止策ではなく、これまで森林と全く関わりのない人たちにも森林づくりに関わってもらえるための仕組みなのです。たとえ関わり方が間接的であったとしても、森林を意識してもらうことによって、多様な森林づくり運動に対する応援団になってくれるのは間違いないと思います」

あらためて森林を考えるきっかけに

 北桑田高等学校森林リサーチ科の活動にしても、森のライフスタイル研究所の活動にしても、地球温暖化防止というキーワードを使いながら、その先に見ているのは豊かで持続可能な森林の姿であり、その森林とともに暮らす地域の人々である。
 京都議定書の目標達成のために、または地球温暖化防止を目指した森林整備は、いま行わなければならないことではある。しかし、そのためだけに行う森林整備であったとしたら、森林の姿はやがて、いびつなものになってしまうだろう。地球温暖化防止を通して森林への関心が高まっているいまこそ、森林のあるべき姿とは、また私たち人間にとって森林とはどういうものなのかを、あらためて考えるべき時なのかも知れない。
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