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森林の公益的機能を持続的に発揮させるためには、森林の適切な管理や更新が重要だ。公益的機能の中にはもちろん、木材生産も含まれている。現在、日本の人工林は利用期を迎えている。そして、木材の大きな需要先となるのは、やはり住宅への利用である。日本の住宅事情や消費者の意識は、時代と共に変化している。それらを概観しながら、森林を活かす時代と「木の文化」について考えてみる。
contents- <特集1>:木造住宅と日本の「木の文化」
- <特集2>:よみがえる民家
- <特集3>:地元の木で家をつくるということ
- <特集4>:木を学ぶ若者たち
- <特集5>:あらためて、木の性質の基本
木造住宅と
日本の
「木の文化」日本の森林が「成長した森林を活かす時代」となり、一方で一般にも木造住宅の魅力が見直され始めている今、新たな「木の文化」が生まれようとしているのではないだろうか。
ここでは、日本の森林の現状を踏まえた上で、木造住宅の考え方の推移や、木造住宅が果たす役割から、新たな日本の「木の文化」について考えてみる。
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「森林を活かす時代」とは
平成16年度版の森林・林業白書では、「我が国の森林は、伐らないで守る時代、植えて回復する時代を経て、成長した森林を活かす時代に入っている」としている。
日本の森林面積に占める針葉樹人工林の割合は約4割だが、成長の早い針葉樹人工林は、日本の森林蓄積(森林にある樹木の幹の体積)の約6割を占めている。また人工林は、一般的に伐採可能となる林齢46年生以上のものが2割を超え、さらには人工林の林齢構成は31~45年生のものが突出しており、これらはすぐに伐採可能となる。つまり「成長した森林」とは、戦後の荒れた日本の山を復興するために植えられてきた針葉樹人工林が、伐採して利用可能な林齢に育ってきていることを指しているのである。
さらに白書では、「森林を活かすということは、木材を生産しつつ公益的機能も十分に発揮させていくことである」としている。しかし、国産材の供給量は年々減少しており、木材自給率は平成11年以降ずっと2割を切っているのが現状だ。日本の森林から生産される木材が使われていないことが、間伐等の手入れの不足につながり、そのことが森林の公益的機能の低下も招いているのである。■日本の人工林の林齢別面積
また、木を伐らなければ、新しく植えることもできない。少子化傾向が将来の不安を予感させている日本の人口問題のように、日本の森林も林齢バランスを整えていかなければ、森林の「持続可能」という大きなアドバンテージを脅かすことになってしまうかもしれない。
そして、国内で製材される木材の約8割は建築用に向けられている。だからこそ、「森林を活かす時代」において木造住宅の持つ意味は、非常に大きいのである。
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失われていた「木を使う文化」
では、日本の森林蓄積が増えていっていたこの期間に、日本の住宅・建築事情はどのように変化していったのだろうか。また、木材はどのように扱われていたのであろうか。
「昭和20年代の後半からの建築と都市づくりのテーマは、不燃ということです。昭和30年代の後半くらいから鉄の供給に余裕が出てきたこともあり、鉄やコンクリートの住宅が増えていきました。一方では、高度成長期に都市に人がどんどん入ってきたこともあって、住宅が不足していました。それで集合住宅、中層から高層、超高層という住宅がどんどんつくられるようになっていきました。そこには、欧米への憧れのようなものもあったと思います。そのような流れの中で、特に、都市部の住宅では、伝統的な日本の木の文化というようなものを、意識的になくそうとしていたんです」と言うのは、芝浦工業大学教授の三井所清典さん。(2005年当時)
三井所さんは建築家でもあり、またNPO木の建築フォラムの代表理事のひとりでもある(2005年当時)。木の建築フォラムは、木材資源の循環を大切にし、住環境に関わる技術研究、生産振興、文化継承を考え実践するネットワーク団体である。
こうしてつくられていった住宅を象徴するのは、プレーンな白い壁であり、金属やプラスチックといった素材の家具である。そのシンプルさは魅力的でもあるのだが、どこかもの足りない淋しさがあった。そういった中、昭和50年代に流行したのが北欧製の木の家具であった。木目の不均一性が醸し出す変化、揺らぎといったものが、人の精神にマッチし、落ち着きや暖かみとして感じられたのである。そして昭和60年代に入るとインテリアとしての家具だけでなく、床や柱、壁にも木を活用するようになっていった。その頃には不燃化、高層化といった都市づくりの動きを一通り達成しており、建築そのものにも木を使ってみようという意識が、あらためて生まれ始めたのだという。
「日本が不燃化、高層化を目指して技術開発をしている間、欧米では競技場のドームのような大きな木の建築が、現代建築として多くつくられていました。それは、金属の材料を木で置き換えたというようなもので、接合部は金属のプレートとボルトで締めていくつくり方なのですが、そういう新しい接合方法で大きな建築をつくる技術は欧米でずっと進んでいたんです。そういう欧米の構造技術を学んで導入されはじめたのが、やっと20年くらい前の話です」
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伝統的な工法から学ぶ
特集3でも紹介しているが、現在、地域材を使用しての家づくり運動が盛んになってきている。
「伝統的な日本の木造建築のつくり方の原則は、木と木を組み合わせること。力がかかったときにはお互いにめり込み、力が抜けると木が復元するという、木の性質を活かしていました。現在、木の建築をつくろうと思ったときに、値段の高い金物を使う接合方法ではなく、木と木を直接つないでしっかりした建築をつくれたら良いな、という発想が出てきました。それはまさに、伝統的な工法そのものなのです」しかし、そこには大きな障害があった。昭和25年、建築物の安全性や居住性を一定レベル以上に保つことを目的とした建築基準法が施行された。そこには構造計算の基準も設けられているのだが、その中に、木と木を組み合わせた伝統的な仕組みについてのものがないのである。法隆寺や東大寺のように、すでにあるものをそのまま修復するとか再建することは認められたが、伝統的な工法で全く新しいものをつくることが出来なかったのである。
「加工・組み立ての技術はあったものの、その安全性を保証する構造計算の技術がないんです。これをクリアしないと、今後の木造技術が欧米的になるだけで、日本の伝統技術の発展の延長上に新しいやり方を探すことが出来ません。そこで、そのための研究に着手したのが昭和60年代です。ですから、臨戦態勢にあった昭和10年から戦中・戦後を通して昭和60年までの間の50年間は、木造建築の研究発展の空白期間となっていたのです」と三井所さん。
金具を使わずに木を組む日本の伝統的な工法を活かして建てられた「宮崎県木材利用技術センター」
伝統工法に対する研究が盛んになることで、その性能が科学的に証明され始めたのは、つい最近のことだ。そして、伝統的な工法でつくられた新しい建築物も姿を見せはじめている。
「ようやく、日本の木の文化を再構築できる状態になってきました。このような過渡期に、山側でも木材が出せるようになってきたというのは、とてもタイミングが良いとも言えるでしょう」
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木造住宅の果たす役割
国内の住宅着工戸数に占める木造住宅の割合はここ数年、45%前後で推移しているが、木造住宅に対する関心は高まっているようである。
「シックハウス症候群が問題となったことなどで、住まいと健康についての関心が強くなってきたことが、木造住宅が見直され始めた大きな要因でしょう。それとやはり、日本人は木が好きだということなのだと思います。コンクリートやクロス貼りではなく、やはり自然のものを使いたいという思いが出てきたのでしょう。ただ漫然と住むということではなく、より良く住むということに関心が出てきたということかもしれません」と言うのは、林野庁林政部木材課住宅資材班担当課長補佐の武田義昭さん(2005年当時)。
調湿作用があること、衝撃吸収性が高いこと、断熱性が高く独特のぬくもりがあること、ダニの繁殖を抑制すること等の木材の特性は、人々の健康に寄与するものである。それとともに、循環型社会や地球環境問題への寄与という面でも見逃せない。■施主の木造住宅に関する意識・関心(複数回答)
「やはり、地球温暖化防止へ果たす役割が大きいでしょう。温室効果ガスである二酸化炭素を吸収・固定して木は成長しますが、その木を腐らせたり燃やしてしまったら、再び二酸化炭素は大気中に戻ってしまいます。それは化石燃料とは違って、もともと大気中にあったものが戻るだけの、いわゆるカーボンニュートラルではあるのですが、木造住宅として使用して二酸化炭素を閉じこめたままにしておき、さらに新しく植えられた木が成長して吸収・固定していくことではじめて、温暖化防止への寄与となるのです」
また、木材は建築資材として使われた後にも再利用ができること、鉄やコンクリートといった他の素材と比べて製造時の炭素排出量が少ないことも、地球温暖化の防止につながっていく。
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21世紀の「木の文化」を目指して
住宅に限れば、日本では三井所さんが言うように「木の文化」というものが途絶えていた。これからは、新たに再構築していかなければならない。では、21世紀の「木の文化」とは、どのようなものだろうか。
「やはり、循環利用ということだと思います。そして、現在はもったいないという言葉がはやっていますが、段階的に活用して無駄なく使い切るための工夫が必要でしょう」と武田さん。
循環利用というのは世界的な潮流である。あえて日本型の木の文化、というのならば、日本の森林から生産された木材を日本で無駄なく使う、ということになろう。
また、建築の世界から見た、これからの日本型の木の文化について、三井所さんは次のように語った。
「20年前(2005年当時)欧米の木造技術が入ってきたとき、湾曲した集成材が多く使われました。これは柱と梁が合わさった合理的なものですが、本来の日本の木の建築は、垂直水平がキチンとしている端正なものです。日本的な木の使い方というのは、欧米人には分からないものがありますし、その発展のさせかたがあるはずです。そういうことを、今後に向けて考えていかなければならないと思います」
日本の木の文化の再構築は、始まったばかりなのである。
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よみがえる
民家木の魅力のひとつに、「再生可能」ということがある。この言葉には、伐採後に植林することによって再資源化が可能ということだけでなく、木材そのものの再利用が容易であるということも含まれている。ここ数年、古い民家が見直されるようになり、その再生や移築の事例が増えている。木の魅力があらためて認識され始めた、ひとつの現れであるとも言えるだろう。
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再利用が容易な住宅が「民家」
「現在では手に入らないような立派な材木が使われ、かつ日本の伝統的な工法や技術によって建てられた民家が次々と壊され、捨てられています。そんな現状を何とかしたいというのが、活動の出発点です」と言うのは、NPO法人日本民家再生リサイクル協会(JMRA)の飯島晃子さん(2005年当時)。JMRAは、民家を提供したい人と住みたい人を結ぶ『民家バンク』、取り壊される民家古材の再利用を図る『JMRA古材ネットワーク』を運営しており、専門家による民家活用の無料電話相談も行っている。 民家と、いわゆる木造住宅とは何が違うのか。飯島さんは「いろんな考え方があるとは思いますが…」と前置きした上で、伝統的な工法で木を組んで建てられていて、バラして再生できること、金物や接着剤などが使われていないことをポイントとしてあげてくれた。つまり、再利用や再資源化が容易であるということだ。そして、そのように、例え姿を変えながらでも100年以上活用されていくような長寿命の住宅であるならば、古いものばかりでなく、新しくつくられたものであっても、それは民家なのである。
明治の建築時には、すでに江戸時代の古材が使用されていたという民家。再生工事によって、江戸、明治、平成生まれの木材が一体となった家に生まれ変わった(滋賀県坂田郡山東町)。
(NPO法人日本民家再生リサイクル協会 http://www.minka.jp/)
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住宅にも3Rを
古い民家に使われている木材の使い込まれた渋い色合いは、大きな魅力だ。しかし、民家や古材の魅力は、それだけではない。
「以前は趣味的・骨董的な意味合いが強かった民家の再生利用ですが、今では自然環境への負荷や健康な暮らしといった視点からのニーズが増えているようです」と飯島さんは言う。木材は適切に使われてさえいれば、100年、200年経ってもその性能は変わることはない。そしてシックハウスなどなかった時代の家は、健康住宅という面でも申し分がない。
「暗いとか寒いとか、あるいはプライバシーがないとか、今様のライフスタイルに合わないということで、これまで民家は捨てられ壊されてきました。しかし現在の技術ならば、それらを改善することができます。私たちは民家再生を、新しく家を建てたり買ったりするだけではない、住宅を手に入れるための選択肢のひとつとして定着させていきたいと考えています」と飯島さんは言う。
古材を使用して改装されたマンションの一室(東京都江戸川区)。撮影/荒井政夫
循環型社会を形成していくためのキーワードである3R(リデュース:廃棄物の発生抑制、リユース:再利用、リサイクル:再資源化)の推進は、我々のライフスタイルの見直しから始まる。住宅についても同じことだ。民家再生の活動は、住宅における3Rを具体的に示してくれている。
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地元の木で
家をつくる
ということ「地産地消」という言葉は、もう一般的な言葉として定着したといってもいいだろう。人々は、自分が暮らしていく上での地域との関わり方を意識し始めている。食の問題から浸透していった考え方であるが、それは森林・林業の世界も同じである。現在、地域の木材を使っての家づくり運動が盛んになってきているが、そこにはどんな想いがこめられているのだろうか。
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顔の見える木材での家づくり
「これまで住宅への地域材利用が進まなかったのは、品質と供給の面で安定していないことが原因だと言われています。地域材を使ってもらうには、寸法安定性や強度などの品質を重視し、ニーズに対応していく必要があります」というのは、林野庁林政部木材課住宅資材班担当課長補佐の武田義昭さん(2005年当時)。
平成16年度の森林・林業白書では、地域材利用を推進するための取り組みとして、(1)大量消費市場に向けたもの、(2)最終消費者の多様なニーズに対応したものの2つにターゲットを明確化して、需要先の確保を図る、としている。冒頭の武田さんの話は、この(1)に対応していくための取り組みである。(2)については、森林所有者から住宅生産者までの関係者の連携、つまり「顔の見える木材での家づくり」を通じての取り組みの重要性が指摘されている。
「普通に地域材を使っていた時代は、どこの山から出た木材はこういう特性があるとか、そういうことが家をつくる人の頭にあったのですが、流通範囲が広がっている現在は、その木材がどう変化するのかが分からない。それを活かす技術もなくなった。そういうことも、木材の品質重視が必要となってきた理由でしょう。『顔の見える木材での家づくり』の取り組みは、地域ごとにあった木材を使う知恵のようなものを、復活させていくという目的もあるのです」
林野庁の調査では、「顔の見える木材での家づくり」に取り組んでいる団体数は平成16年度で218団体であり、前年度から36団体も増えている。それに伴って住宅供給実績も982戸増加し、平成16年度は6892戸であった。また、平成15年に公表された内閣府の「森林と生活に関する世論調査」では、木造住宅をつくるとしたときに重視することとして「国産材が使われていること」が上位に入っている。
「自分の家がどういう材料で、どういうふうにつくられるのかを知りたい、という消費者が年々多くなっているように思います。また、食品がそうであるように、国産であることに価値が出てきていることもあるようです」と武田さんは言う。■木材を利用した住宅を選ぶとき重視すること(複数回答)
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地域の林業を活性化させるために
「旬伐りの家造り」でつくられた家「東京の木で家を造る会」も、「顔の見える木材での家づくり」活動をしている団体のひとつである。
「私たちの発想は、良い家をつくるということからではなく、東京の森を再生するということからの家づくりです。同じような活動をしている団体は増えていますが、その多くは建築主導で、実際には山とのパイプがないものも多いようです。そういうものと私たちの活動は、根本的に違います」と言うのは、事務局長の稲木清貴さん(2005年当時)。
それも、ただ森が再生すれば良いのではない。良質な木材を持続的に生産できる森をつくることが目的であるという。そのためには適切な管理を行うことが不可欠であり、当然コストもかかる。現在の林業の問題は、このコストが捻出できないことにある。そこで稲木さんは、東京の林業を活性化させるためのプランを打ち立てている。
「東京の人工林は約3万haですが、木材を持続的に生産できるのは1万5000ha。そこから年間5万3mの丸太を安定的に供給できるようにすれば、年間1000戸の住宅が出来ます。一方、東京で林業を続けるためにはいくら必要か、というところから材価を逆算すると、ちょうど相場の2倍でした。東京では毎年木造住宅が2万8000戸建っていますが、そのうちの1000戸でいいんです。この1000戸を、林業を続けていくための値段で買っていただければ、東京の林業は続けていけるのです」
稲木さんは、この1万5000haの人工林が常に再生産をしていくことで、森林作業や製材などで約800人の雇用が生まれると試算している。
このことも、林業を地場産業として成立させたい理由のひとつであるという。
「このようにして山を変え、建築を変え、消費者にも理解を深めていくことで、東京の林業のあるべき到達点に向かっていきたいのです」
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木の弱点も承知で使ってもらうことの必要性
「木材の良さは、調湿機能があること、毒にならないこと、持続的な生産が可能なこと、そして環境負荷が少ないことです。木の弱点である狂いをなくすために人工乾燥して、たくさんのエネルギーを使ってしまったら、その木材ははたして環境に良いと言えるのかどうか。遠くから運んでくることについても、同じことが言えます。木材には所詮、弱点があるのです。それを承知で使ってもらえるかどうかが問題で、そのためには真剣に自分たちが扱っているものを伝えていくしかありません」と稲木さんは言う。東京の木で家を造る会では「森と住まいの講座」を開催し、施主の木材に対する理解を深めることに努めているが、そこでは、製品の製造から使用、廃棄に至るまでの環境負荷をもとめて環境への影響を評価する、ライフサイクルアセスメントの視点からの勉強会も組み込まれている。 また、東京の木で家を造る会では2004年から、”環“というブランドで「旬伐りの家造り」を始めた。施主が、林家が手塩にかけた木の中から”旬の木“を選び、”旬の時季“に伐採する。それを設計に合わせて製材、自然乾燥して、工務店が適材適所に施工する。そして伐採した山には、新たに植樹をする、というものだ。この取り組みでは、主要木材量の2割を限度として、木材価格を相場の2倍に設定している。それはもちろん、キチンと育てられた良材を適切に利用しているからこそであり、そこに価値を認める施主もいるのである。
「旬伐りの家造り」では、施主が伐出作業に立ち会う
「会ができてから約10年(2005年当時)。地道に活動を続けてきて、やっとここまできました。まだ、木材量の2割にしか2倍の値がつけられませんが、この割合を増やしていき、東京の森から出てくる木材の値段をまずは相場の1.5倍にしていきたい。このような活動を続けていけば、やがて東京の森は持続可能になる。そう信じて、皆さんに協力してもらうしかないと思います」
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木を学ぶ
若者たち森を活かす時代となった今、新しい木の文化を構築していくためには、それを担う若者たちの台頭が必要だ。ここでは、大学生が山村でのグループ制作を通じて森と木材の姿を学ぶ「木匠塾」の活動と、基本的な木工技能を学び棟梁を目指す若者を育てる「東京建築カレッジ」の活動を紹介しながら、将来の日本の木の文化を担う若者像を探ってみる。
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山村での体験で若者の顔つきが変わる
「木匠塾」の活動は、「大学の建築学科では木造建築教育がほとんどなされていない」ということから1991年、岐阜県の飛騨高山で関東の3大学が合同ゼミ合宿を行ったことに端を発する。それ以来年々参加校が増え、現在は6か所に分かれて、建築家の任意団体である建築フォーラムの支援のもと、それぞれの活動を展開している。
「例えば加子母木匠塾では、施主制度といって住民が施主さん、学生が設計者であり施工者となって、例えばガレージなどを地元の木材でつくります。川上村木匠塾では、学生が構内公共物などの制作を通じて、伐採から設計制作までの流れを体験しようという活動を行っています。このように各地で活動内容も運営のしかたも違いますが、地元の森を感じ、地元の木を使って地元に残るものをつくるという点で共通した活動です」と言うのは、木匠塾事務局代表で京都造形芸術大学環境デザイン学科副手の戸田都生男さん(2005年当時)。戸田さん自身も、川上村木匠塾の参加経験者である。
大学の建築学科といっても、学内ではせいぜい小スケールの模型くらいしかつくることが出来ない。■木匠塾2005年度開催状況
木匠塾の活動は、大学にとってみれば、学生が実際の木材を使って実寸大のものを制作することが出来るのが、大きな魅力となっている。また受け入れる町村にとっても、毎年若者がやってくることが、停滞している地元の林業や木材産業にとっての刺激となっている。
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「学生のほとんどが、学校の単位が得られるからとか、木は温かいとか良いにおいがするとか、それくらいの感覚で参加しており、森林や木材の実体を知りたいという参加者はごくわずか。ところが活動を始めると、例えば林業家の、大事に育ててきた木を大切に使って欲しいという気持ちなど、地元の木に携わる人たちの思いが伝わってくるんです。1週間も過ごせば、顔つきが変わってきますね。そして、木のことをもっと知りたいと思うようになるようです。ですから、参加者の4分の1はリピーターです」
卒業後も自分が制作したものを見に再訪する参加者は多く、受け入れ先の工務店等に就職する例も出てきているという。森林や木材を通じた、新しい人と人とのつながりが生まれ始めているのである。
「年々増えていく参加経験者が、木匠塾の財産です。社会に出た木匠塾OBは仕事を初めて5~10年になり、職場でも中心的な役割を担いだしていますから、そういった方たちをネットワーク化していくことで、受け入れ先の町や村に恩返しできるようなことを成していくことが、これからの課題です。そして、日本の森と都市を結ぶキーマンが、木匠塾から出てくることを期待しています」
林業体験
制作風景
完成した藤棚の前で記念撮影(すべて川上村木匠塾)
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旺盛な探究心で技能を伝承
大学の建築学科の学生は、デザイナーや設計者を目指している若者がほとんどだという。その一方で、実際的な木工技能を学ぶことが出来る場もある。1996年に創設された職業能力開発短期大学校東京建築カレッジも、そういうもののひとつである。
東京建築カレッジでは、木の良さを活かす日本の木造建築技術(手道具、木組み、構法)に学習の基本を置き、2年間で建築の仕事で求められる技術・技能を学ぶことが出来る。また、新しい時代に求められる自然環境に調和した本物の家づくりを担う棟梁としての職業能力や、建築スペシャリストとしての職業能力開発も図っている。
「文章化して教えられるものが技術で、一緒に手を動かしてみないと身に付かないのが技能だとすれば、東京建築カレッジで学ぶ若者たちは、技能のレベルで体験する、身につけることを目指しています。だから、刃物を研ぐような単調なことでも、非常に熱心ですね。建築を学ぶ大学生とは興味の範囲が違うだけで、彼らの建築や木に対する探求心は大学生を凌ぐほどです。逆に、大学生は現場をほとんど知りませんから、自分たちと同じ年代のカレッジの若者たちが住宅を実際につくっているのを見ると、かなりのショックらしいです」というのは、東京建築カレッジ副学校長の小林謙二さん(2005年当時)。小林さんは、関東学院大学工学部建築学科の教授でもある。
東京建築カレッジでは、「この木はこう変形する」といった本来の木が備える性質から、変形を活かしたり相殺のするための構法や施工法といったことを、経験豊かな指導者から直接学んでいる。2年間という短期間だが、その知識と技術力は、相当なものなのだそうだ。
「日本の森を有効に活用するには、変形するとか汚れるといった木の性質を施主が理解し、受け入れてもらうことが大切でしょう。東京建築カレッジで学んだ若者たちが、日本の木の性質やすばらしさを伝えることをしてくれれば、それは小さいけれども、日本の森をよくしていく運動のひとつになるのではないかと思います」
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これからの木の文化を支える若者たち
「今の学生は、デザインや形にこだわってしまう人がほとんどです。木造建築であることの意味を、その背景まで含めた視点で考え、新しい何かをつくり出していって欲しいと思います」と戸田さん。小林さんも、「学生たちの世界では、きれいなデザインであれば快適で安全、と短絡的に考えてしまうことが多々あるのですが、そういうことを反省しながら、木を使うということをあらためて考えていきたいと思っています」と言う。木を学ぶ現場としての課題点としてあげてくれたことは、奇しくも同じ内容であった。木を学ぶ現場は、今後ますます充実していくことは間違いない。
木匠塾と東京建築カレッジ。もちろんそれだけではなく、同様なことを学んだ若者たちが第一線で活躍し出すのは、ちょうどこれからだ。戸田さんが言うように、そういう若者たちがネットワークを組み、何かをなしえていくことで、日本の新しい木の文化が生まれていくだろう。その予感は十分にある。
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あらためて、
木の性質の基本特集3では稲木清貴さんから「木には長所もあるが弱点もある。それを承知で使ってもらえるかどうか」、特集4では小林謙二さんから「施主が木の性質を受け入れてもらうことが大切」という発言をいただいている。それをうけて、ここでは、木材の基本的な性質の一部を、あらためてご紹介する。
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木の水分が生み出す性質
木材の性質を大きく左右するのが、木材に含まれる水分である。 - ●木材の含水率
<主要木材の含水率>
木材の水分は「含水率」という言葉で表現される。一般的に「水分が10%」と言うと、その総重量に対して水分の重量が10%を占めていることを言うが、木材の含水率の10%とは、完全に水分を含まない木材重量100に対して10の水分が加わったことを指す。したがって、木材の重量と水分の重量が同じであれば、含水率は100%となる。伐ったばかりの生材は多量の水分を含んでおり、多くの樹種が含水率100%を超える。スギでは200%を超えることもある。
一般に含水率は、針葉樹の方が広葉樹より高い、春に伐採したものの方が秋に伐採したものよりも高い、丸太の外側の部分である辺材(色の淡い部分)の方が中心部に近い心材(色の濃い部分)より高いことが知られている。
- ●乾燥と収縮
木材が含む水分は、細胞の内腔や細胞壁の間隙にある水である「自由水」と、細胞壁を構成する成分と結合している水である「結合水」に分けられる。木を乾燥させると、まずは自由水が蒸発するが、この段階では重量が変わるだけで変形しない。木の自由水がなくなり、結合水だけになった状態を繊維飽和点と呼び、このときの含水率は樹種にかかわらず28%前後である。
さらに乾燥していくと結合水も蒸発していく。細胞壁内の水分が減っていくために収縮し、変形していく。このときの収縮の具合は、木の中心に向かっていく面(正目)よりも、木の中心に向かって垂直な面(板目)の方が大きく、その作用によって木材の変形の方向が決まる。また、急速に乾燥させると、表面だけの収縮が進んでしまうために割れてしまう。
<木材の水分の状態>
やがて大気中の温度や湿度に応じて、樹種にかかわらず一定の含水率(日本では15%前後)で安定するが、この含水率を平衡含水率といい、この状態の木材を気乾材という。
- ●木材の調湿機能と寸法変化
気乾状態の木材は、自らの水分を放出したり大気の水分を吸収することによって、大気中の温度や湿度に応じた水分を含んだ状態になろうとする。つまり、大気が湿気ているときには水分を吸収し、乾燥してくると水分を放出する。これが木材の調湿機能である。
このとき、水分を吸収すれば木材はそれだけ膨張し、水分を放出すればそれだけ収縮する。つまり木材が寸法を変化させるのは、調湿機能があるからでもある。これが木材の長所であり、短所でもある。 - ●調湿機能のある家と健康
木材の吸湿機能は、結露の防止になる。また、湿度を低く一定に保つことが、カビやダニの防止にもつながる。 - ●木材の水分と強度
木材は繊維飽和点より含水率が低くなるにつれて、木材の構成成分がそれだけ凝縮し、強度が増す。また、含水率が20%以下であれば、木材腐朽菌が活動することが出来ず、腐ることはない。
- ●木材の含水率
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多孔質であることが生み出す性質
木材はパイプ状の無数の細胞からなっており、多くの空気を含んでいることが大きな特徴のひとつである。- ●軽さにつながる
空気を含む空隙が多いほど比重が小さくなる。つまり軽いということだ。
木材の比重は、樹種によって異なる。一般的には比重が大きいものほど強度的には優れるが、実質的な木質部分が多いだけに、伸縮の度合いも高くなる。また針葉樹は比重が小さいものが多い。ということは、軽くて狂いにくく、建築用として使いやすいということでもある。 - ●熱伝導率と木の温かみ
比重の小さいものほど熱を伝えにくい。つまり、断熱効果が高いということである。比重の大きいカシなどを触るとひんやりとするが、スギなどでは温かみを感じるのは、皮膚の表面温度がそれだけ失われにくいからなのだ。
<フローリング改装前と改装後のダニ数の変化(匹/㎡)>
木の床がコンクリートなどの床に比べて温かみを感じる理由のひとつは、多孔質という木材の性質による。床材の場合、温かみだけならばカーペットでもよいが、カーペットは木と比べてほこりがたまりダニの温床となりやすい。
- ●燃え尽きにくい
木材は有機物であるために燃焼するが、表面からゆっくり燃えていくという性質がある。燃焼することによって表面に出来た炭化層は低い熱伝導率により、内部に熱を伝えにくくして燃焼の進行を遅らせる。これは細胞の固まりであり多孔質である木材であるがゆえだ。この性質は、断面が広く厚いほどに発揮される。 - ●衝撃吸収能力
パイプ状の細胞が柔軟に変形してクッションのような役割をすることによって、木材は衝撃吸収能力が高い。このことは、転倒などによる怪我の防止にもつながる。 - ●目にも優しい
木材の表面は、パイプ状の細胞を切断したことによる凹凸があり、光が乱反射される。そのため木材からの反射光は目に優しい。また木材は、有害な紫外線をほとんど反射せず、目への刺激が少ない。
■主要木材の性質
- ●軽さにつながる
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自然素材であることが生み出す性質
- ●地球温暖化防止に寄与
樹木は、温室効果ガスである二酸化炭素を吸収・固定して成長する。木材を長期にわたって使い続けることは、大気中の二酸化炭素を木材として固定したまま保持しておくことである。また、木材を使うために木を伐り、あらたに木を植えることは、さらなる二酸化炭素の吸収につながる。
<一戸あたりの炭素貯蔵量と材料製造時の炭素放出量>
また、材料製造時の炭素排出量が少ないことも、木材の大きな特徴のひとつである。 - ●天然素材であるがゆえの、ゆらぎ
木材の木目は自然の産物であるが故に、その幅や間隔が均一ではなく、適度な「いい加減さ」を持っている。完全に予想できても、まったく予想できなくても、人間はいらいらするらしい。適度にいい加減で、何となく予想できない感じが人間には心地よく、このような状態を1/fゆらぎと言う。木材の木目は、まさにこの1/fゆらぎであり、人に心地よさを与える。
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- ●地球温暖化防止に寄与